儚く、甘く、…繋ぐ。【5】［Reo.S］

大切な人 3 ページ43

.

＿暑い夏のさなか、

卒業発表の号の撮影を終えた。


それは家族だけが知る事実で、

私の家族だからこそ守れる秘密だったと思う。




私は少しずつ片付けていく。


間違えかけた引き算をきちんと終わらせる。



玲於の部屋にあった私物は随分減らした。

一緒に居られる全ての時間は６階で過ごす。



５階の部屋の中は、最低限の荷物だけに。



出来るだけ普段通りに。


気付かれないように、傷付けないように。




.



.



…"その時"は玲於が撮影の為、

一人きりで海外へ出発する日の朝にした。





『……あの、玲於…。

…実は私、留学する事になった。
大学の選考に通ったの。

…ギリギリまで玲於に言えなくて…』


「…は？」



私が自分に予定を合わせている事を

気にしながらも喜んでくれていた玲於は、

その突然の報告にひどく落胆した。



「…ヤだよ。」


『今だから、行けるんだよ？
私のワガママ聞いて、…お願い。』


「今だって全然Aと会えてないのにムリ。
もうちょい落ち着いてからにしてよ。」



『…ごめん。』


「は？ごめんって何…？もう決めてんの？」



荷造りの手を止めて、玲於は私の前に立つ。



「…嘘でしょ？
そんなの今まで言ってなかったじゃん！
俺がどーゆー時期か分かってて言ってんの？」


『…ごめんね。』


「………。」

『………。』



長い沈黙が流れる。



いつも最後には折れていた私の決心が

固い事を悟ると、玲於は冷たい目を向けた。



「…もういい。知らね。

…そんな薄情だと思わなかった。」



玄関まで手を引かれグッと押し出された。



「しばらくいいわ、お前。」


『…玲於…』


「お互い勝手にしよ。」


『…れ、』



バタンと扉が閉じた時、静かに頬が濡れる。



自分が悲しいからじゃない。

ほんの少しでも玲於を傷付けてしまったから。



傷付けたくなかった。



『…ｸﾞｽｯ…。これで、いい。』



…私の事、要らなくなって。


もう玲於はきっと…大丈夫だからね。




出来るだけ長く、私の話を信じていてね。


出来るだけ早く、私を憎んでね。



だけどお願い、忘れないで。


ワガママだけど

…忘れないで。




…ごめんね。


閉じた扉に手を当てて届く事を祈った。



『…いってらっしゃい。元気で…』



おかえりは、もう言えない。



ごめんね。


ずっと愛してるよ。





…愛してるよ、玲於。


.

He 20→←大切な人 2

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す