儚く、甘く、…繋ぐ。【5】［Reo.S］

きっかけ 9 ページ19

「おい。…触んな。
…ぶん殴るぞ。」



奈々『は？』


奈々さんを睨み付けて言い放った。


玲於の声は冗談じゃない事が分かる冷たさで

奈々さんの手は、ビクッと止まった。



私はそのやり取りの隙に強引に動く。


やっとの事で振りほどいた腕を離れて

急いで荷物を抱え込んだ。



「…チッ！分からず屋！」



すると、痺れを切らした様子の玲於が

私の腰を強引に引き寄せて、マスクを下げた。


ぐん、と玲於がアップに見えると、

私の荷物がドサッと落ちる音がした。



『…ふっ…んっ！』


奈々『…っはぁっ？！
…ちょっとぉっ！！
何やってんのっ！ 玲於っ！！』




…ねぇ玲於。


…何が何だか理解に苦しむよ。


打ち上げ先では、

他の女の人とイチャついてるのを見せられて、

元カノさんには別れろって説教されて、

その上みじめに指輪まで外されちゃって…


なのに、私、こんな所で何されてるの？



…人前でキスしたの初めてだよ。



夢？ …であって欲しい。もしくはドッキリ…？

また甘い雰囲気に持ち込んでごまかしてる？



玲於の胸を必死で押すけど、

さらに強く腕を巻き付けてくるだけだ。



奈々『…玲於ってば！！』



この時間、ほとんどお客さんは居ないけど

店員さんを中心に間違いなく店内がざわめく。


"え、佐野玲於？""相手は？"って聞こえる。


「…抵抗すんな。余計怪しまれる。
…ほら、いつも通りイイ子にして、…な。」



ほんとに、狡い…。


騒ぎを早く収めて欲しくて、私は力を抜いた。



奈々さんが必死で周りからわたしたちを隠す。



奈々『っ！やめなって！』



…なのに、玲於はやめようとしない。


離そうと必死な奈々さんを避けて

キスを繰り返す。



ついに奈々さんは、

もう隠し切れないと判断したらしかった。



奈々『あぁもうっ！…撮影のフリして…！』



わたしたちにだけ聞こえる音量で言うと、

荷物の中から一眼レフを出した。



ぶつぶつ呟きながらシャッターを切る。


奈々『…何で私がこんな事…。』



カシャ、カシャッ…


軽快なシャッター音を響かせて

わたしたちがフィルムに焼き付いていく。



「せっかくだし…」


玲於はキスしたまま笑って

更に調子に乗って立ち上がった。

きっかけ 10→←きっかけ 8

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す