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その胸の内に何を秘めているのかは分からない。
けれど、私は彼の覚悟を受け入れるべきなんだと悟った。
「フィディオ…分かった。でも、こっちだって簡単に負ける訳にはいかないからね？」
「ははっ、そうこなくっちゃ。明日が楽しみだよ」
やっといつものように笑ってくれた。
その事に私もホッとしたけれど、彼の顔を見てふと思い出し、ポケットからあるものを取り出すと彼に近付く。
「え、A？」
フィディオは急に近付いてきた私に少しだけ後退りをする。
そんな彼にこれ以上逃げられないよう、取り出したものを素早く彼の頬にペタリと貼り付けた。
私の行動に呆気に取られたのか、絆創膏の貼られた頬をそっと片手で触っている。
「これ…せめてもの応急措置。ほっぺの傷、結構目立ってたから。本当は消毒した方がいいんだけど…」
「あ…絆創膏を貼ってくれたんだ……そりゃそうだよな…」
どこか残念そうな顔をするフィディオ。
その理由が分からなくて首を傾げてしまう。
「ちゃんと人の事を見てて、さすがマネージャーだね。ありがとう」
「ううん、寧ろこんなのでごめんね。フィディオって綺麗な顔してるんだから、顔の傷はちゃんと治さなきゃダメだよ？」
思わずそう言えば、また呆気に取られたような顔をした。
あ…男の子にこんな事言うのは、あんまり良くなかったかな…？
でも、本当の事だしなぁ…
「君ってやつは本当…いや、やめておこう。こんな事言ったらマークにまたどやされる」
「え？」
「何でもない。じゃあ、また明日…会場でね！」
片手を振りながらフィディオはこの場を去って行った。
私も去っていく背中に小さく手を振り返す。
フィディオ…すごく真剣だったな……
予め約束をするくらいだから、とても大切な話なのかもしれない。
その事ももちろん気になるけれど、彼が全身に作っていた傷の数々も気がかりだ。
練習がハードなものだっとしても…やっぱり心配になる。
「！って、晩ご飯の準備！」
いつまでもフィディオが去った後を見つめていたら、自分のやるべき事をやっと思い出した。
今ここでいくら考えても仕方ない…明日になれば、全部分かる。
彼が伝えてくれる時は…あくまでオルフェウスが勝った時だけど。
だからといって、負けられない。
私は気合を入れ直して、宿の中に入っていった。
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作者名：結川 | 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/users/17663132
作成日時：2021年8月23日 16時
