第六章 約束 ページ1
今日はオルフェウス戦の前日。
朝からみんな気合を入れて練習に取り組んでいた。
彼らがたくさんの汗をかく度に、私達マネージャーも全力でサポート出来るよう環境作りもかかせない。
そして気が付けばもう日も暮れかけていて、辺りはオレンジ色に染まっていく。
試合前日の練習って、いつもとは違って時間が過ぎるのが早い気がするな…
そろそろ晩ご飯の準備をしなければならない時間帯。
私は下準備のためにひと足早く宿へ戻ろうと歩いていた。
「あ… A」
宿の前には以前買い出しを手伝ってくれた彼…フィディオが立っていた。
よく見たらユニフォームは汚れ、顔などにも痣が出来ている。
よほど激しい練習でもしていたのだろうか。
「フィディオ！どうしたの、こんなところで…」
「急にごめんな。その… Aに会いに来たんだ」
「私に？」
てっきり円堂君に用かと思っていたけれど、まさかの私に会いに来たと言われて内心少し驚いた。
「あ…フィディオ、すごく傷だらけだよ。簡単でいいなら手当てしてあげられるけど…」
「いや、大丈夫。ちょっと練習がハードだっただけなんだ。……相変わらず優しいね…君は」
せめて少しでも手当てを、と思ったけれど首を横に振られてしまう。
彼は笑って言ってくれたけど…その笑顔はどこか影が見える気がした。
「あのさ…このままで聞いてくれるかな。すぐに終わるから…」
「？うん…」
フィディオの空気が真剣なものに変わるのが分かり、私は改めて彼に向き直る。
私を真っ直ぐに捉える大きな青い瞳には、何かを決意したような…そんな意思が覗いて見えた。
「もし明日の試合に俺達が勝ったら…Aに伝えたい事がある。もし伝えられたとしても、どんな結果になるのかは…分かりきっているけど……それでも、俺は伝えたいんだ」
今までにないくらい真剣な表情。
もし彼から目を逸らそうものなら、この決意を拒否してしまう事に値するくらいだ、と思えるほど。
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作者名：結川 | 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/users/17663132
作成日時：2021年8月23日 16時
