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*




そのくまの本来の存在意義も航海に出る恋人に離れてしまう自分の代わりとして渡した

そんな背景があるらしく、有り難くも忙しくてなかなか会えない時も多い俺達を重ねて同じ様にそれぞれ手元に置こうと

提案というか、お強請りをされた

正直恥ずかしいし自分はそんな事するタイプでもない

断ると少し拗ねた藤ヶ谷が、"じゃぁ俺の家に一緒に置くからいい"と言って結局二匹連れて帰っていた

何をそんなに拘っていたのかあの時は理解出来なかったけれど…

仲良く並んで座る二匹はお揃いの服を着させられ、手首にはそれぞれ赤とピンクのバンダナが巻かれている




「…お前は、俺の代わり…分身なんだよな?」




赤いバンダナを付けてるくまをそっと抱き上げた

もしこのまま残していけば…

何もかもが無くなった後のこの部屋で此奴は一人、自分だけが取り残されて虚しい寂しい思いをするのだろうか

例え隣に並んでいてもその相手はもう、俺の恋人の代わりの存在ではないから

頭に触れるとふわふわとした毛が心地良い

顔を近づけると微かに藤ヶ谷の甘い香りがした

…分身にこの香りが染み付いたまま置いていくのはあまりに酷だ




「…此奴、連れてくな?一緒に居てやってくれて、ありがとう」




ずっと隣に並んでいた片割れに言葉を掛けて自らの分身を抱え、置いていた物たちで一杯になった紙袋をもう片手で持つ

ズシッと感じる重み

寝室とリビングの電気を消して玄関まで戻ったところで一度ゆっくりと振り返る




"行ってらっしゃい。気を付けてね"




此処から仕事に向かう時、自分の出発が先だと必ず藤ヶ谷は玄関まで見送りをしてくれた

つい離れたくなくなってしまう温かさもあった随分と聞いてない甘い声

せめてそれだけでも、優しくて幸せな記憶のまま

この家での思い出は今日、全部置いていく




「藤ヶ谷今までありがとう。 …じゃぁな、」




静かな玄関に響き吸い込まれていった別れの言葉

メモ等書き置きは何も無い

だから藤ヶ谷に直接俺の言葉が届く訳でもない

…でもそれでいい

一片でも形を残してしまうと未練に繋がってしまうから

外に出て後ろ手に閉めた玄関の扉がガチャ、と重めの音を立てて家の中と自分を完全に隔てる大きな壁となった




もう、後ろは見ない




_

明けの三日月→←☾



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kurumi(プロフ) - aaaさん» 切なくなったりドキドキしたり…そんなお話が書けたらと思っていたので楽しんで頂けていたら何よりです(*´˘`*)私もFさんは月のイメージでした。でも此のKiさんにとっては太陽なんですよね。逆にFさんにとっては…。ありがとうございます!最後までよろしくお願いします (2022年10月5日 22時) (レス) id: 65b4911c20 (このIDを非表示/違反報告)
aaa(プロフ) - このお話、いったいどう着地するんだろうとドキドキしながら読ませて頂いてたのでちょっとホッとしてます。Fくんって太陽の太が入ってるのに月のイメージなんですよね。。月の満ち欠けで進むお話素敵ですね。続きが楽しみです。 (2022年10月5日 19時) (レス) @page27 id: 28fb511570 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:kurumi | 作成日時:2022年8月4日 0時

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