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35、涙(真咲視点) ページ36

王様に言われて
咲の元へ着いた頃、
医女たちが診察を終え
外に出てきたところだった。

「花嬪様は無事ですか?」

「はい。お腹の子も問題ございません」

「良かったぁ…」

「ですが心配事も今の花嬪様には
大きな負担となってしまいます。
臨月近くではありますが
万が一、早産となれば母子ともに危険です。
私たちも最善を尽くしますが
どうか花嬪様をお支えくださいませ」

「わかりました」

医女たちの姿が見えなくなってから
花嬪様の部屋へ入った。

「真咲…」

「花嬪様もお腹の子も無事だと聞きました。
何事も無くて良かったです」

「えぇ、そうね…」

いつもなら不安も恐怖も上手く隠す咲が
今回だけは違った。

かなり大きくなったお腹を撫でる手は
少し震えていて、俺とも目が合わない。

太陽派だから、大妃様の推薦だから、
咲には恐ろしいことは起きないと思っていた。

欲望に満ちた王宮でも
咲なら大丈夫だと、どこかで思い込んでいた。

それは、きっと咲自身も同じ。

不確かな思い込みが簡単に崩れ、
動揺を隠せない。

その証拠に、とうとう咲の瞳から涙が零れた。

「ごめんね…今だけは、泣かせて…」

「花嬪様…」

咲が人前で泣くことは
今までも、それほど多くなかった。

いつも笑顔で、涙を見せることなんてなかった。

そんな彼女が今、目の前で泣いている。

涙を拭うことなく、止めようともせず、
自分感情のまま、泣いている。

その姿を見て、咲の人間らしさを感じた。

咲も、唯一無二の人間なんだと…

「自分のことなら、いくらでも我慢できる…
でも、もし、この子に何かあったら…私…」

「大丈夫です。必ず俺が守ります。
お腹の子も、花嬪様も、必ず守り抜いてみせます」

「真咲…」

「なんのために花嬪様の護衛をしていると
思っていらっしゃるのですか?
いつだって花嬪様のそばに居ます」

そのとき初めて、咲の涙を拭った。

姉弟であっても、簡単には触れてはいけない。

彼女は王族で、俺は家臣だ。

咲は簡単に触れて良い人ではなくなった。

でも咲も、王様も、神様だって、
今なら許してくれるだろう。

だって、やっと咲が泣き止んだのだから。

36、疑えない(花嬪視点)→←34、子どもだから?(雅視点)



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作者名:空井 奏音 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2021年1月2日 19時

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