天高く (ページ5)

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秋の空❹ ページ5

オレは、イライラしていた。

また来ている。

オレが接客した相手に嫌がらせをする女。
そのくせオレには声もかけてこない。
接客に行っても、無視。

初めは気のせいかと思ったが、
そうではなかった。
周りのスタッフも気付いていて、
空いている時は意図的に他の席があまり
見えないところに案内するようにした。

だが、行動はエスカレートするばかり。
どうしてオレの、店の大事なお客様に。
何かあるなら、オレに文句でも何でも
言えばいいのに、何一つ言ってこない。

トラブった覚えもない女の訳の分からない
行動で、オレの大事な人たちに迷惑をかけて
いるのが心苦しくもあった。

　今日は、朝から水をひっくり返したかと
思えば、帰りがけに子どもにまでちょっかい
かけていて本気で焦った。
　北山が目を光らせていなかったら、
ケガをしていたかと思うとムカつくどころじゃない。
　
　北山は、早い段階で女の行動に気づいていて、
オレと同じ時間に入る時は、何も言わずに
フォローしてくれていた。

　ロッカールームに入るなりあれこれぶちまけているが、
自分がしている見えないところのフォローには一切ふれない。
北山らしい。

着替え終わってロッカーの扉を閉めると、足元に何か落ちているのが目についた。

拾い上げるとスタッフのロッカーのネームプレートだとわかる。

宮田と印字されたそれは、２つ向こう、
北山の隣のロッカーのものだった。

放置することもできたが、
それぐらい一瞬なんだから貼ってやれよという
自分もいて、
くだらないことに悩む自分に
ますますイライラが募る。

そんなことを考えながらロッカーの方を見ると
ちょうど北山が着替え終わったところだった。
一歩、足を踏み出す。
この距離なら北山がいてもプレートを貼れる。

「えっと、どした？」

　北山をスルーしてネームプレートを貼った。
イライラしているから叩きつけてしまい、
心の中で宮田にちょっとだけ謝る。

ロッカーが立てた音に驚いて北山がそれを見た。

拍子抜けしたようにこちらに向き直した北山があどけなくて。
イライラしている自分が馬鹿みたいに思えてきた。

たまらずその唇に自分の唇を押し当てた。

「…じがや…」

絞り出された声で我に帰る。

オレ、何して…

「悪ぃ」

慌てて離れる。

イライラして北山にキスしたとか
自分の行動が意味不明すぎる。

「頭冷やすわ」

逃げるようにロッカールームを飛び出した。