第三十四話 ページ46
*****
あの日、Aは学校で、いじめっ子たちにブチ切れたという。
堪忍袋の緒が切れた、なんてもんじゃない。あれは、別人格だとしか思えなかった。先程のような、Aでありながら、Aではないもの。
そういえば、阿月が突然儀式の実行を宣言したのは、あの数日後。偶然にしては、少々出来過ぎな気もする。
(もしかして、あの人格変化が儀式の頃合いを示す合図のようなものだったのか?)
「姉上!!」
隣で考え込んでいる美玖をよそに、傘が声を上げる。その声に顔を上げると、ボンヤリと宙を見つめるAの姿が目に入った。
「姉上!…よかったぁ」
姉が目を覚ましたことにすっかり安心しきったようで、傘は金糸雀の瞳から大粒の涙を零し始めた。
一方Aの方は、状況を飲み込めていないらしく、わんわん泣く弟を前に、対処に困っている。
あっちへこっちへ視線を彷徨わせたのち、ふと、美玖の方へ視線を向けた。
それを、わたしにどうにかしろと?
無理なお願いだ。第一、ついさっき傘と約十年ぶりの再会を果たしたというのに、この娘は何を言っているんだろう。しかも、再会のきっかけは姉の暴走とは。記憶がないとはいえども、弟の子守りくらい、何とかしてほしい。
視線を外し、「自分でやれ」という雰囲気を出す。が、大袈裟に肩を落とすAの姿は、まるで仔犬。美玖は母性のど真ん中を射抜かれ、溜息を吐きつつ、傘に話しかけた。
「おい傘。姉ちゃんが困ってんだろ、もう少し静かにしてやれよ。ったく、マジダルい、マジめんどい…」
「!あっ、姉上、僕ったらついうっかり……姉上が目を覚ましてくれて嬉しくって……」
またもや涙腺が崩壊した傘は、自らが泣いていることに気がついていないらしく、鼻水やらなんやらを、そっとAが拭ってやる。
「A、その、なんだ。…大きくなったな」
突然の美玖の言葉に、目を丸くするA。だがすぐに柔らかく微笑んだ。
「そうですね。美玖様とこうして一対一でお話するのは、いつぶりでしょうか」
わたしには昨日の事のように思えます、と言った。穏やかな声色だった。
「儂は、手前を見捨てた」
「美玖様は、わたしを見捨ててはいません」
「儂は、手前を裏切った」
「美玖様は、わたしを裏切ってはいません」
「儂はーー」
「美玖様は、何も悪くありませんし、何も間違えてはおられません」
美玖が放った言葉全てを否定し、遮ると、もう一度微笑んで、囁いた。
「悪いのは、全部わたしです」
美玖にはそうは思えなかった。
終わり ログインすれば
この作者の新作が読める(完全無料)
←第三十三話
34人がお気に入り
「オリジナル」関連の作品
この作品が参加のイベント ( イベント作成 )
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
どこんじょう(処罰対象) - 弓乃さん» こちらこそよろしくお願いします! (2019年3月22日 21時) (レス) id: 45a23aa5e3 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - どこんじょうさん» 遅れてごめん!明けましておめでとう!ID違うけど私だよ!今年もよろしくお願いします!!! (2019年2月3日 16時) (レス) id: 7a5e1ee815 (このIDを非表示/違反報告)
どこんじょう - 新年明けましておめでとうございます!今年も期待して続きを待っています! (2019年1月1日 22時) (レス) id: 5e33bfab9e (このIDを非表示/違反報告)
どこんじょう - 弓乃さん» いえいえ!ってか、じぶんのほうが頑張らなきゃいけないっていう...展開は重要ですのでじっくり考えてください!私はいつでも暇なのでいつまでも待てます!過去編は長くてもいいんじゃないかな?過去編って重要だし。頑張ってください! (2018年12月29日 17時) (レス) id: 5e33bfab9e (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - どこんじょうさん» どこんじょうちゃん!お久だね。今ちょっと展開を考えてて‥‥‥全然更新できてなかったんだけど、どこんじょうちゃんがそう言ってくれるなら頑張ろうかな。有難う。感心であってるよ。過去編長くてすまんね。才能、かぁ。私なんかは全然だよ、でもありがとうね。 (2018年12月28日 17時) (レス) id: 7a5e1ee815 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:弓乃 | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/novel/mamamitu/
作成日時:2018年3月3日 20時