第二十八話 ページ40
規則正しい寝息を立てている元弟子を見つめ、先程起こった出来事を思い返す。
今回のような出来事が一度だけあった。
濡れて帰って来たAに、メイドはなんと声をかけていたのだろうか。
********
「美玖様!」
輝かんばかりの笑みを浮かべ、駆け寄ってくる愛弟子。驚いたが、優しく抱きとめ、頭を撫でる。
まだ齢九のAだが、どこか大人びた雰囲気の少女だった。そのため、時折見せる年相応の表情に、思わず笑みが溢れるのだ。
「今日はどうした?」
こうして甘えてくるのは、大抵の場合何か良くないことがあった時だ。撫でる手はそのままに、静かに訊く。Aは答えずに、代わりに頭を擦り寄せてきた。なにやら満足そうな表情にすっかり絆され、別にいいかと思ってしまう。全く、これではこの子の思うツボだというのに。わかっていても引っかかってしまうのだ。彼女の罠に。
パッと顔を上げて、ジィッと美玖の顔を見つめる。見つめられ続けていると思うと、なんだか恥ずかしくなってくるものだ。ぶっきらぼうに、なんだと言う。照れ隠しというのがわかってか、楽しそうに笑うA。
「修行、美玖様の式神が見られるんですよね!楽しみで仕方がないのです!」
式神とは、大陰である。模擬戦として、鍛錬場で使うことを言ったところ興味が湧いたらしく、この日が来るのを心待ちにしていたのだ。
興奮気味のAにぎこちない笑みを返す。期待されるには嬉しいが、その為にしたことを聞いて、微妙な気持ちになった。A曰く、課題を学校で終わらせ、幼馴染を置き去りにし、先生の話が終わった瞬間に膳所邸に全力疾走してきたらしい。それでいつもより早いのかと納得しつつ、先生に後で謝りに行こうとも思ったのは、彼女には言わないでおこう。幼馴染二人については、御愁傷様としか言いようが無い。
「わかったから、取り敢えずそれを取れ。まったく、マジ滑稽。マジ不恰好」
美玖のそれとは、Aの髪に絡まった消しかすだ。良くないこととは、これか。はぁっとため息を吐く。あれれ〜?と言いながらまったく違うところを触るAを見て、なんとも言えない気持ちになる。
以前もこのようなことがあり、明確なイジメだとすぐにわかった美玖は、担当の教師に話を聞きに行った。すると、頭をかいて、帰ってきた言葉に唖然とした。
『いや、僕の方からも言ってるんですけどね。恐らくAさんーー自分が虐められてるって気付いてないんですよ』
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どこんじょう(処罰対象) - 弓乃さん» こちらこそよろしくお願いします! (2019年3月22日 21時) (レス) id: 45a23aa5e3 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - どこんじょうさん» 遅れてごめん!明けましておめでとう!ID違うけど私だよ!今年もよろしくお願いします!!! (2019年2月3日 16時) (レス) id: 7a5e1ee815 (このIDを非表示/違反報告)
どこんじょう - 新年明けましておめでとうございます!今年も期待して続きを待っています! (2019年1月1日 22時) (レス) id: 5e33bfab9e (このIDを非表示/違反報告)
どこんじょう - 弓乃さん» いえいえ!ってか、じぶんのほうが頑張らなきゃいけないっていう...展開は重要ですのでじっくり考えてください!私はいつでも暇なのでいつまでも待てます!過去編は長くてもいいんじゃないかな?過去編って重要だし。頑張ってください! (2018年12月29日 17時) (レス) id: 5e33bfab9e (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - どこんじょうさん» どこんじょうちゃん!お久だね。今ちょっと展開を考えてて‥‥‥全然更新できてなかったんだけど、どこんじょうちゃんがそう言ってくれるなら頑張ろうかな。有難う。感心であってるよ。過去編長くてすまんね。才能、かぁ。私なんかは全然だよ、でもありがとうね。 (2018年12月28日 17時) (レス) id: 7a5e1ee815 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:弓乃 | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/novel/mamamitu/
作成日時:2018年3月3日 20時