幼馴染からその先へ【双星の陰陽師】

第二十六話 ページ38

次々と鮮やかに思い出す鎖で繋いだはずの過去。
沸々と湧き上がる怒りと、憎しみ。悲しみ。
［少し眠っておれ］
眠る間際、そんな声が、聴こえた気がした。

傘said

大事な人を馬鹿にされ、詰られ。そんな毎日だった。
「私の弟に、何してくれてるの！？」
Aが来た時は、本当に驚いた。まさか、来るとは思ってもいなかった。
純粋に、嬉しかった。母親代わりに自分を育ててくれた彼女が、大切だと思っていてくれていたことに嬉しかったのだ。
だけど、目の前にいる奴らは、そんなAに暴言を吐いた。挙げ句の果てには、故人である父、家族全員を屑と評し、下卑た笑い声をあげる始末だ。
思わず、下を向く。情けなかった。言い返せない自分に、嫌気がさした。
「……我が主を侮辱し、その血族まで貶した阿呆が。貴様等に、とやかく言われる筋合いなど皆無。相手を侮辱するために使われる口など、いっそ縫って仕舞えばいい」
一瞬、誰が声を発しているのか、分からなかった。
顔を上げると、先程とは明らかに顔つきが違う姉が、冷たく言い放つ。
傘を投げたのも衝撃的だったが、優しい姉とは口調、態度が全く違う。
まるで、別人だ。
自分に言われたわけでもないのに、あまりの威圧感に冷や汗が背中を伝う。
それは、男子生徒たちも同様で、Aの雰囲気の変わり様に言葉を失っていた。
「な、なんだよコイツ！別物じゃねえか！」
「ほぉ。未だに無駄口を叩くか童。黙れとせっかく遠回しに言ってやったというのに、なんとも、物分かりの悪い。羽音を立てるな。蝿の羽音は五月蝿くて敵わん。不愉快極まりない」
そう言って、妖艶な笑みを浮かべる。
(し、知らない……！こんな姉上、姉上じゃない！)
見たことのない姿に、畏怖の念を抱く。
暫く、雨音だけが響く。
着物が濡れるのも御構い無しに、Aがおもむろに腕を上げ、振り下ろした。
狙いはAの一番近くにいた男子。
さすがに、普段訓練してはいるだけのことはあり、飛び退いて攻撃をやり過ごす。
(どうすれば…！どうすればいいんだ…！！)
繰り広げられる攻防戦。優勢なのは誰が見てもAだった。だけど、彼女も無傷ではない。
大切な姉を守りたい。傷つけたいくない。
自分が仲介に入るのは得策とは言えない。焚きつけたのは紛れも無い傘である。
ふと、ある人の存在を思い出す。Aが幼い頃から見ていた人だ。あの人なら、半狂乱状態のAを正気に戻すことも、もしかしたら可能だろう。
傘は気づかれない様に校舎へ向かった。

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