第二十五話 ページ37
「ヒュウ…ヒュウ…ヒュウ…」
雨に濡れて錆びた校門に寄りかかって、肩で息をする。
運動不足だろう。さすがに、久々の運動にしてはかなりハードではないか。凛凪邸から青陽院までは結構な距離があり、昔のAならまだしも、今の彼女が容易に走れる距離では無い。
「……変わらないな」
呼吸も落ち着いて来たところ、青陽院を見ながら口に出す。時間が経てば脆くなり、当然修復もする。けれども、雰囲気だけは変わらずに残り続ける。誰かが変えない限りは。
しみじみとして校舎を眺めていると、遠くで、雨にも関わらずに中庭で何やら人が群がっているのが目に入った。
傘に雨傘を届けなければならないし、ついでに見てみようか。
そんな好奇心にあっさり負け、敷地内に入る。近づいて行くにつれ、だんだん姿がはっきりとしてきた。
一人の男子生徒を囲むように、三人の比較的大柄な男子生徒が立っていた。
嫌な予感がする。走ったばかりだったが、心配で急いで駆ける。
顔が鮮明に見えるようになった時、Aはさしていた傘を落とした。
何故なら、中心に立っていた人物は紛れも無い、唯一無二の弟だったのだ。しかも、Aがそれを認識してから一秒経つ前に、顔面を思いっきり殴られたのだ。
驚きはした。けれどそれよりも、怒りが膨れて、爆発した。
次の瞬間である。
目にも留まらぬ速さで飛んできた雨傘が、傘を取り巻いていた生徒たちと傘の隙間を抜け、そのまま壁にめり込んだ。
「私の弟に、何してくれてるの!?」
雨傘を飛ばした主は、怒鳴ったAである。
怒りが原動力となり、鬼の形相をしたAが思いっきり雨傘をぶん投げた。普段の行いからは信じられない行動だった。
「姉…上」
今にも泣きそうな様子は、いつも笑っている人物には見えないほど、歪んでいた。先程殴られたのであろう右の頬は赤く腫れている。
「おぉ?傘くーん。だぁい好きな姉上のお出ましだぜえ?」
「あれだろ、『凛凪の恥晒し』様!」
「家族揃って屑だなぁ!姉貴は恥晒し、弟は腰抜け。親父は出来損ないで、お袋は戦力外!」
ぎゃはははと、下品な笑い声をあげる生徒たち。傘は、下を向いて歯を食いしばっている。
ふと、院生時代の思い出がフラッシュバックした。
傘と同じような立場で、母に迷惑をかけたくなくて、ずっと黙っていた、あの時。母は精神的に大きな傷を負っていたから、これ以上酷くはしたくなかった。なにより、自分を慕ってくれている弟に、心配させたくなかったのだ。
34人がお気に入り
「オリジナル」関連の作品
この作品が参加のイベント ( イベント作成 )
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
どこんじょう(処罰対象) - 弓乃さん» こちらこそよろしくお願いします! (2019年3月22日 21時) (レス) id: 45a23aa5e3 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - どこんじょうさん» 遅れてごめん!明けましておめでとう!ID違うけど私だよ!今年もよろしくお願いします!!! (2019年2月3日 16時) (レス) id: 7a5e1ee815 (このIDを非表示/違反報告)
どこんじょう - 新年明けましておめでとうございます!今年も期待して続きを待っています! (2019年1月1日 22時) (レス) id: 5e33bfab9e (このIDを非表示/違反報告)
どこんじょう - 弓乃さん» いえいえ!ってか、じぶんのほうが頑張らなきゃいけないっていう...展開は重要ですのでじっくり考えてください!私はいつでも暇なのでいつまでも待てます!過去編は長くてもいいんじゃないかな?過去編って重要だし。頑張ってください! (2018年12月29日 17時) (レス) id: 5e33bfab9e (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - どこんじょうさん» どこんじょうちゃん!お久だね。今ちょっと展開を考えてて‥‥‥全然更新できてなかったんだけど、どこんじょうちゃんがそう言ってくれるなら頑張ろうかな。有難う。感心であってるよ。過去編長くてすまんね。才能、かぁ。私なんかは全然だよ、でもありがとうね。 (2018年12月28日 17時) (レス) id: 7a5e1ee815 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:弓乃 | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/novel/mamamitu/
作成日時:2018年3月3日 20時