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韓国でも有名な温泉地である水安保。周囲を山で囲まれ、清流が流れる自然豊かな環境であるここは、観光客で賑わう温泉街である。
この温泉街の中でもひときわ目立つのが、『山仙ホテル』であった。
韓国大手旅行サイトでも上位をキープしているこのホテルは、水安保の象徴と謳われるものとなっていた。
年中賑わいをみせる温泉街から、少し山間に入ったところに、小さな旅館がひっそりと建っていた。
『旅館 葉月』
シンプルに書かれた看板には、側に植えてあった紫陽花のツルが巻きついており、良い飾りとなっていた。
同じ水安保にあるにもかかわらず、旅館葉月だけは温泉街の賑やかさとは対照的に静まり返っていた。
「今日も予約はゼロか…」
この旅館の若女将であるAは、手元のマウスをカチカチと指で叩くようにして、頬杖をついていた。
この旅館の女将はAの母親であるが、数年前に病で倒れたことがきっかけとなり、一人娘であるAが女将職を引き継いだのである。
母が長年夢だった旅館経営を韓国出身の父が実現したのがこの旅館である。
金沢の老舗旅館跡取りであった母は、当時若女将で修行中に韓国から旅行できた父と出会い、トントン拍子で結婚に至った。
もちろん、旅館の跡取りであったので周囲からは猛反対を受けるも、母の強い思いに渋々結婚を許したそうだ。
Aが物心つく頃には、父は病でこの世を去っていた。
もともと体が弱かったからしょうがないねと、母が涙を流していたのは今でも覚えている。
父が亡くなった後も、母は旅館葉月の女将としてよく働き、地元の方々からはとても愛されていた。
「おい、バカA。落ち込んでもしょうがないだろ。」
背後からいきなり声をかけられて、私は思わずさけびそうになった。
「ちょっと、レン!急に、脅かさないでよ!3日連続で予約ゼロで、落ち込まないわけないでしょ?」
当旅館の板長であるレンは、今年で30歳となるがまだ独身。
先代の板長が退職され、後任に抜擢されたのだが、仕事一筋のせいか女性との出会いも虚しく20代最後を迎えようとしていた。
「雲行きが怪しくなってきたから、今日はこのまま閉めたらどうだ?」
「え、うそ。洗濯物取り込まなきゃ!」
今日は、仲居さんもお休みで、旅館にいるのは私とレンの二人だけ。
季節は、深緑の夏。
彼の言う通り、どんよりとした雲が空を覆ったいた。
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あーちゃん(プロフ) - とりま最高 (2019年10月10日 16時) (レス) id: 578ed0c715 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 愛(サランさん» ありがとうございますm(_ _)m 次回作もお楽しみに…笑。 (2019年3月21日 16時) (レス) id: 6fb3a64d96 (このIDを非表示/違反報告)
愛(サラン(プロフ) - お、おわり、、 めちゃくちゃ面白かったです!ありがとうございました!次もあるなら待ってます!お疲れ様でした (2019年3月21日 14時) (レス) id: bbbfbb5774 (このIDを非表示/違反報告)
つき - 凄い面白いです!更新頑張って下さい! (2018年12月17日 15時) (レス) id: e9fb8ac079 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - ちあさん» ありがとうございます。頑張ります♪ (2018年12月6日 14時) (レス) id: 62b0c80745 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2018年9月14日 15時