第八譚 ページ8
_
雪弥くん、と。緑谷は確かに言った。
だが記憶のない氷室からすれば、緑谷とは初対面。氷室は「あー」と間の抜けた声を出しては、またへらへらと笑った。
「どっかで会った？」
記憶喪失だと悟られたくはなかった。氷室が誤魔化すように言うと、緑谷は少し残念そうにする。
「そうだよね、小学校までしか一緒じゃなかったから。緑谷出久！あ、かっちゃんから『デク』って呼ばれてたかな」
雪弥くんは一個上の学年で、よく遊んでもらってたんだ、と。緑谷は久しぶりに氷室に会えて嬉しそうな顔をする。
「……そうだそうだ、思い出した。久しぶり」
やべ。我ながらクソ下手な嘘ついた。今絶対目ぇ泳いでたし。氷室は思う。
全く思い出せない。『デク』って悪口じゃね？それを許容してるということは…気弱な少年なのか？という印象。
「嘘なんでしょ？」
「は」
緑谷は、依然嬉しそうな顔だった。「嘘でもいいよ、会えただけで嬉しい」と。素直に緑谷は言った。
緑谷には、氷室の嘘はお見通しだったようだ。そりゃあ、あれだけ間が空けば誰だって分かる。
緑谷と氷室を見兼ねたリカバリーガールが、溜め息を吐いたあとにこう言う。
「その子ね、記憶喪失なのさね。一年以上前の記憶が無いんだよ」
「おいばあさん、言うなよ」
リカバリーガールに対して「ばあさん」と。この少年、分かっては居たがかなり生意気で失礼である。全人類に喧嘩売りながら歩いているに違いない。
「そうなんですか…」
緑谷は心配そうに氷室の方を向いた。こうやって気を遣われるのが嫌だったから記憶喪失であることは隠そうとしたのに、このザマだ。
氷室はパッと緑谷から離れて、溜め息を吐きながらまた保健室のベッドに寝転んだ。
「リカバリーガール、少し雪弥くんと話しても良いですか？」
緑谷がそう言うと、リカバリーガールは「勝手にしな」と自身の仕事をし始めた。
「ありがとうございます」とリカバリーガールに言ってから、緑谷は氷室が寝そべるベッドに腰掛ける。氷室は顔を顰めた。
「なあここ、俺の縄張りなんだけど」
「縄張りって…」
ここは学校の保健室であって、誰のものでもない。しかし、緑谷はそう返答をせずに、
「うん、ごめんね。僕もここに座っていい？」
「……ん、いいよ。特別」
さすがの緑谷。不良の扱いになれてるというか、扱いが上手いと言うか。
氷室は、そんな緑谷の優しい声と表情に折れたと言うわけだ。
_
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 948人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
χCielχ(プロフ) - やっさんさん» そうです〜！！氷室編で出すかどうか今は迷っております〜ややこしくならないよう心がけます💪 (2021年11月27日 0時) (
レス) id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - 瑠李さん» ｱ!!ありがとうございます！！(*´╰╯`)楽しみに待ってくれているのだなと思えるだけでとても力になりますありがとうございます！頑張ります！！ (2021年11月27日 0時) (レス) id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
やっさん(プロフ) - へ！？逆巻さんて、あの、時間巻き戻しの逆巻さんですね(^^♪。活躍場面は、あるのでしょうか(^^)？ (2021年11月26日 22時) (レス) id: a424e1a16c (このIDを非表示/違反報告)
瑠李(プロフ) - めっちゃ好きです˙˚ʚ₍ ᐢ. ̫ .ᐢ ₎ɞ˚読んでます。更新いつも楽しみに待っています。頑張ってください。応援してます。 (2021年11月26日 18時) (レス) id: 9824e2f221 (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - あのさん» ありがとうございます〜！！男主に触れて下さり嬉しいです！コメントとても力になります…！頑張ります！！！ (2021年11月26日 1時) (レス) @page47 id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
