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「おせぇ」
爆豪が痺れを切らして、一階の人目のつかないエントランスにいた。
Aがなかなか来ない。
そのことで腹が立っていた。
「爆豪くん！」
と、爆豪の背後から声が聞こえた。
Aじゃない。
一瞬で爆豪は分かる。
それでも振り向いた。
そこには________
「白河」
爆豪の視線の先には、Aではなく百合がいた。
「ごめん、Aじゃなくて」
「アイツは？」
「Aは私に時間をくれて……」
「時間ダァ？」
「うん、あ、あのね、こんなこと聞いたら爆豪くんもう飽き飽きしてるだろうけど…」
「早よ言えや」
「あ、あのね、私……」
手を握る。
「私、爆豪くんのこと好きなの………」
消え入りそうな声で真っ直ぐ見つめてそう告げた。
微塵も好意を寄せられてれるとは思ってもいなかったように爆豪は声を出す。
「は？」
じわじわと百合の頬が赤く染まり始める。
「ずっと、好きだった。私に頼ってくれた時とかすごく嬉しかった。幸せだった。」
ドキドキと鳴り始める音。
上がっていく体温は誤魔化せない。
「………でも爆豪くんの相手は私じゃないから、ケジメをつけにきた……フラられに来た！！！」
どくんと心臓が脈打つ。
と、
「ぷっ、」
悪戯をした子どものように爆豪が笑う。
胸が苦しくなった。
百合のぐちゃぐちゃになった心を掬い上げるように、爆豪が言う。
「バカじゃねぇの」
爆豪は笑ったまんまだ。
「普通フラレに来るやつなんか居ねぇだろ」
唇が震えて声が出ない。
「テメェとは付き合わねぇ」
ようやくフラれて百合は心のどこかで胸が痛みつつも安心した。
「……うん……なんでさ、Aがいいの？Aのどこが好き？」
「…………あのヤローは…」
「なりふり構わずバカみてぇに前だけ見てる、少しだけは俺にねぇモンも持ってる、そーいうところだわ」
「………そっか。」
百合は涙を拭った。
ぶっきらぼうに言うけれど、爆豪が本当は優しいひとだということに百合はもう知っていた。
そんな爆豪だから、百合は余計にどきどきしてしまう。
けれど、それも過去のもの。
「ありがとう」
百合はそう言って後を去った。
______うん、………大丈夫。
百合は手をグーにして心の中で呟いた。
白っぽく濁った空から雪が降り始めていた。
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作者名：おにぎり。
| 作成日時：2021年10月23日 11時
