47話 ページ48
ーー来ないでよ！
いきなり来る人全てを拒むような声が、僕の脳内で響く。聞き覚えがある声だ。
ぼんやりと白い襟巻きが頭の中に浮かんだ。
もしかして、これは大和守様の声なのだろうか？
考え込んでいると、わずかに体が揺れる。
びっくりして、辺りを見渡すと真っ暗だった。何も見えない。
「なんとか着地ができたみたいだな……」
和泉守様の声が僕のすぐ上から聞こえた。
和泉守様に持ち上げられて、ゆっくりと下される。足がついた。
何度か足踏みをしてみると、地面はぬかるんでいるのか、ぺちゃぺちゃと音を立てた。
「和泉守様」
目は慣れてきても、視界は真っ黒のままだ。
なんだか不安になってきて、和泉守様を呼ぶ。
僕の真横で、人影が僕の方を向いた。
「手を繋ぐか？」
最近、子供扱いが多過ぎやしないか。
胸の内でため息をつく。けれど、僕の手はもう既に和泉守様の手を握っていた。
足音が二つ、こちらに向かってきている。
和泉守様の手を握る力を強める。すぐに和泉守様が握り返してきた。
「一兄、こっちです！」
「秋田、気をつけなさい。また転んでしまうからね」
聞こえてきた声で、身体中から力が抜ける。
和泉守様は僕の手を放した。
「……本物か？」
和泉守様の近くから小さく金属音が鳴る。
刀の縁の辺りに手を置き換えたのだろうか。
目を瞑って、霊力を張り巡らせる。近づいてくる人影には、霊力の糸がくっついていた。
「霊力を感じます」
和泉守様は一息つくと、僕の頭を撫でた。
「主君ー！」
秋田様の声が響いて、僕は正面から抱きつかれた。その後ろから、一期様の声が追いかけてくる。
「こら！ 待ちなさい」
「……もうすっかり、元通りになったんだな」
和泉守様がはたと呟く。一期様が声を返した。
「はい？」
「相変わらず、仲がいいんだな」
「……弟を気にかけないなど、兄としては失格でしょう」
「ちょっと前までは、兄としては失格じゃなかったか？」
「それを言わんでくだされ！」
視界はどこも黒くて見えないけれど。
僕は、一期様が顔を赤くしているように思えて、笑ってしまった。
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作者名：うたた寝する三毛猫 | 作成日時：2022年3月9日 11時
