44話 ページ45
足が重い。
和泉守は白い道を歩いていた足を止めた。
足元に視線を向けると、足首のあたりまで水に浸かっていた。
「……は？」
いつから水に浸かっていたんだと、和泉守は首をひねった。答えは出ない。
訳がわからないまま仕方なく歩き出す。
ざぶり、と水をかき分けながら進む。
とうとう膝の辺りが重くなってきて、また歩みを止めた。
「なんだよ、これ……」
立ち止まっていても関係なしに水は量を増やしていく。
和泉守の心に恐怖が芽生えた。水から逃れようと走り出す。
いきなり、和泉守は何かに引っ張られて、尻餅をついた。
水がホースで吸われていくかのように、量をぐんぐんと減らしていった。
「……まずい」
ばしゃん、と遠くで水が勢いよく地面にぶつかったような音が耳に届く。
和泉守は立ち上がれもしないで水の流れに飲まれていった。
和泉守の意識がぷつりと途切れた。
「……様！ 和泉守様！」
誰かが和泉守を呼んでいる。
和泉守は、聞き覚えのある呼び方に目をあけた。
「……主？」
燃えるように輝く金色の瞳が心配そうに震えていた。
和泉守が勢いよく体を起こした。
Aを腕で引き寄せてぎゅう、と抱きしめる。
「和泉守様？」
Aは岩のように固くなって、されるがままだ。
和泉守はAから腕を離すと、Aの頬を包み込むように両手で触れた。
「……暖かい」
和泉守がぼんやりとAの顔を眺めながらつぶやいた。
「え？」
Aが首を傾げると、和泉守の瞳に光が宿った。
和泉守は頬から手を離すと、飛び跳ねそうな勢いで立ち上がった。
「あっちの世界の主の頬は冷たかったから、ついな……」
Aはきょとり、と目を見開くと和泉守に続いて立ち上がった。
しぼんだ声で、そうですか、と薄い言葉を吐き出す。
「……もう、あまり時間は残されていないようですね」
ついて来てください、とAは和泉守の手を引っ張った。
和泉守はうっすらと笑みを浮かべると、ゆっくりと一歩踏み出した。
少しからかってやろうと、ほんのいたずら心で口を開く。
「疲れたらおぶってやるからなー」
Aは子供らしく頬を膨らました。
「二日前と一緒にしないでくださいよ！」
「そんなに変わらなくないか？」
和泉守は、歩く速さを早めたAに苦笑いを向けた。
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作者名：うたた寝する三毛猫 | 作成日時：2022年3月9日 11時
