離れに住む刀剣男士達 (ページ43)

今日:9 hit、昨日:6 hit、合計:27,750 hit

42話ページ43

「これは、借り物っていうか……」

道標が赤いマフラーを手で引っ張っては放すを繰り返す。まるで、初めて物を与えられた幼児のようだ。

「……借り物？」

和泉守が道標を眺めながら聞き返す。

「簡単に言えば『大和守安定が心の隙間を作った原因の姿を借りてる』ってこと」

道標は流れ止まない滝のような説明を、息継ぎすらしないで答えた。
和泉守は聞きなれない言葉を口に出して問う。

「大和守の心の隙間？」

道標は考えるまでもなくすぐに口を開いた。

「大和守安定は、時間遡行軍に体を操られてたでしょ？」

和泉守は、苦いものを口に詰め込まれたかのように眉をしかめた。
大和守に刀を向けられた時の情景が、明確に頭の中で浮かんだ。

「そうだな……」

和泉守は、頭の中の情景に押しつぶされそうになりながら薄い返事を返した。
道標は、そんな和泉守に気がついていないのか、身を乗り出して和泉守に問いかける。

「変だと思わなかった？」

和泉守は何も返さない。
道標は、気にする様子もなく口を開いた。

「刀剣男士が、時間遡行軍に操られるなんてさ」

和泉守の眉がぴくりと上がる。
道標が和泉守を見て眉を下げた。

「だってさぁ、刀剣男士が時間遡行軍側に寝返るだなんてありえないんでしょ？」

和泉守が道標の言葉に呆れ返ったように瞬きをすると、じとりと湿ったような視線を道標に向けた。

「……そうだな。歴史の改変を阻止する。それがオレ達刀剣男士の役割だからな」

道標は瞬きを一度だけすると、抑揚のない声で話を再開しだした。

「でもさ、阻止する側にも変えたい過去がない、なんて言い切れると思う？」

道標のまどろっこしい言い方に、和泉守がうんざりと息を吐いた。

「何が言いたいんだ？」

「つまりさ、心の隙間っていうのは時間遡行軍とかに付け入る隙を与えるものってわけ」

道標はすらすらと言葉を吐き出した。
和泉守は目を見開くと、思考を巡らせ始める。

「ちょっと待て、ということは」

道標は間髪を入れずに、受け入れ難い事実を告げた。

「俺が姿を借りてる者が、大和守安定に『過去を変えたい』って思わせた原因なんだと思うよ」

「加州が……それは本当か？」

道標に聞いても、分からないだろう。

和泉守は意志とは反対に動く唇を噛み締めた。

「さぁね。俺はその"加州"じゃないから」

案の定、道標から予想通りの言葉が返ってきた。