37話 ページ38
「……三日月、事情は分かった」
「うむ、よきかな」
にこやかに微笑む三日月に、和泉守は眉を顰めて不満げに苦言を呈した。
「けどなぁ、なんで俺が大和守の意識に飛ばされなきゃならねぇんだよ」
間髪入れずに、堀川も三日月に詰め寄った。
不満げな低い声で三日月に問いかける。
「僕は行けないんですか？」
三日月は苦笑いを浮かべた。
眉を下げて、静かな口調で堀川にこう告げた。
「……大和守に負担がかかるからなぁ、それに俺も耐えられん」
堀川は、とくに食い下がりもしないであっさりと引き下がった。
ただ、地面を睨みつける瞳は一層鋭さを増していた。
「あとどのくらい猶予があるんだ？」
そういえば、と和泉守が三日月に尋ねる。
三日月は言い出すのを躊躇うかのように、口を結んだ。
だが、和泉守を見つめると諦めたように硬い口を開いた。
「……あと二日くらいしか猶予はない」
「二日って……結構あるじゃねぇか」
厳しい目つきの三日月に対して、和泉守が目を丸くして不思議そうに呟いた。
三日月は、和泉守から目を逸らしてため息を吐いた。
「主と大和守達の目が覚めるまでの時間も含んでおるのだぞ？」
三日月が和泉守を横目で見つめた。
和泉守は三日月から背を向けて、小さく呟いた。
「悪かったって……」
「三日月さん、早くしないと主さん達が……」
暗く沈む空気を見つめて、堀川がとうとう口を開いた。
「ふむ……和泉守よ、これから俺が話すことを覚えて置けるか？」
和泉守は真剣な面持ちで頷いた。
「うむ、ならばそこに寝転んでくれ」
「こうか？」
和泉守は床に仰向けに寝転んだ。
三日月が満足げに頷く。
「よいぞ」
「それで、話ってのは何だ」
和泉守が三日月に尋ねる。
三日月は目を瞑って開くと、話し始めた。
「覚えておくのは一つだけだ。『道標を見失うな』……忘れるなよ？ 主達も和泉守も帰って来られなくなる」
和泉守はなんども言葉を口で繰り返して、頭に叩き込んだ。
「道標っていうのはどこにあるんだ？」
ふと、和泉守が疑問を呟いた。
だが、三日月は短い言葉を返しただけだった。
「すぐに分かる」
「どういうことだよ……」
和泉守は畳み掛けようと言葉を続けようとしたが、やがて強い眠気に襲われた。
辺りの景色はぼんやりと歪み、消えていった。
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作者名：うたた寝する三毛猫 | 作成日時：2022年3月9日 11時
