36話 ページ37
「おい、三日月。とぼけていないで早く話せ」
いきなり堀川と三日月の間に、空間が生まれた。誰かが腕で押しているようだ。
この空間に、水色の瞳を煌めかせて人影が割り込んできた。和泉守だった。
「ちょっと、兼さん」
堀川が乱暴な口調をたしなめようと声をかける。
和泉守は堀川に目もくれずに、三日月を睨みつけた。
「……気が付いていたか」
三日月は瞳を細めて、うっそりと微笑んだ。
和泉守の睨みは緩むどころか、鋭さが増していく。
堀川は、戸惑っているのか三日月を見つめている。
「……主は、大和守の中で戦っている」
感情を隠した笑みを浮かべて、三日月はゆっくりと言葉を紡いだ。
「大和守さんの中？」
堀川が助けを求めるように、三日月に問い掛けた。
三日月は頷くと、言葉を返した。
「大和守の意識の中だ」
堀川は言葉を頭に取り込もうと、なんども脳内で繰り返した。だが、取り込めなかった。
仕方なく堀川が口を開く。出た言葉は疑問となって飛び出した。
「……そんなことが出来るんですか？」
「うむ、霊力をかなり消耗するがな」
三日月からは、あっさりと肯定の言葉が返された。
堀川は今度こそ混乱の渦に巻き込まれてしまった。
「おい、三日月」
口を結んでいた和泉守が、三日月を呼んだ。口調も声もとげとげしかった。
「……何だ」
三日月にとげとげしさが伝わったのだろうか。
三日月は、先程よりも引き締まった低い声で応えた。
「それは危険な術のはずだ。なんで使った」
和泉守は、三日月に詰め寄った。その瞳は、戦場で時間遡行軍に向けるような瞳だった。
堀川は寒気を覚えて、冷や汗をうっすらと背にかいた。
「……そうか。知っておったのか」
三日月は観念したように目を瞑って開いた。三日月の瞳は、和泉守の瞳を映していた。
堀川が和泉守に声をかけようとして、口をつぐんだ。和泉守の気迫に気圧されてしまったのだ。
「……下手をすれば、主だけじゃねぇ。一期と秋田も消える」
和泉守が三日月を睨みながら、一つ一つ丁寧に言葉を出す。
堀川がか細い声で戸惑いを表した。
「えっ？」
三日月は、澄み渡る瞳で和泉守を見返す。
「それも承知の上だ、主の頼みなど断れん」
和泉守の鋭い声が、呆れたような声に変わった。
「はぁ？ 主が頼んだっていうのかよ」
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作者名：うたた寝する三毛猫 | 作成日時：2022年3月9日 11時
