35話 ページ36
「主は生きてるんじゃねぇのかよ!」
和泉守が三日月に詰め寄る。
必死に抑えていた感情が荒ぶっているようだった。
「確かに、生きてはいる」
三日月は冷たく澄んだ瞳で、和泉守を見返した。
感情を押し殺した声が、和泉守の耳にこべりつく。
「じゃあ何でだ……何で!」
和泉守は、さらなる怒りをこめて三日月の肩を掴んだ。怒り震える感情だけが、和泉守を動かしている。
三日月はこれを見越したかのように、目を細めた。
「……感情に支配されてはいかんのだろう?」
月夜に映える三日月が、和泉守を眩しく照らした。
和泉守が正気を取り戻したのか、三日月から距離を取る。
「……悪かった。少し頭を冷やしてくる」
三日月から背を向けて、和泉守が歩き出す。
堀川はこの様子を見守っていた。だが、思わず和泉守に呼びかけた。
「兼さん?」
和泉守は、堀川を一度も見ないで通り過ぎて行ってしまった。
堀川が棒立ちのまま、和泉守の行方を目だけで追いかける。
和泉守は床に寝ているAの傍で、片膝をついていた。
「和泉守にはちと時間が必要なようだな」
堀川が立ち尽くす横に、青い狩衣が並ぶ。
「三日月さん……」
三日月は、堀川を見つめた。
堀川が質問をしようと口を開く。
「主さんは、どうなってしまったんですか」
「……堀川はどう考えておるのだ?」
堀川が三日月の切り返しに、目を見開いた。
「えっ、僕が?」
三日月が恥ずかしがるように、目を逸らした。堀川が瞬きを繰り返す。
「いや、俺にもよく分からなくてなぁ」
堀川が眉を引き攣らせた。
三日月は、苦笑を浮かべてそこに立っているだけだった。
「分からないんですか?」
堀川が戸惑って、視線を左右に動かす。
三日月が眉を下げて頷いた。
「……なら、何が起こったのかを聞かせてくれませんか」
堀川の口から、細い息が吐かれた。
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作者名:うたた寝する三毛猫 | 作成日時:2022年3月9日 11時