31話 ページ32
「墨のようなもの、ですか」
俯いて頭を回転させる。誰かが僕の手を引いた。びっくりして、顔を上げる。金色の房飾りが目に入る。三日月様だ。
「……主よ、話は後にしよう」
三日月様の瞳は、暗く沈んでいた。三日月がくすんで見える。声も低い。
「主殿、急ぎましょう」
三日月の空いている手を一期様が叩いた。三日月様の瞳に光が宿る。三日月様は頭を振った後、僕の頭を撫でた。もう慣れてきた。
「主の力が必要なのだ」
三日月様は、僕を撫でる手を止めた。一期様と共に一歩踏み出す。
僕は心の中で疑問符を浮かべた。
「僕の力?」
僕の呟きに、返される言葉はなかった。
三日月様と一期様は、さらに歩みを早める。
「急がなければ。手遅れになる前に」
僕の耳には、一期様が早口でつぶやいた言葉が残った。
「……国広、主を見なかったか」
浅葱色の羽織をはためかせて、和泉守は辺りを見渡した。堀川が和泉守を瞬きして見つめる。
「見てないよ。どこに行ったんだろう」
堀川も和泉守と同じように首を動かす。
見つからなかったのか、首を傾げた。
「手入れの礼が言いたいんだけどな……」
和泉守がため息をついて、かき消されそうな声で呟く。堀川が瞳を輝かせた。
「んだよ……」
和泉守が不満げに眉を顰める。堀川は構わず声高く叫んだ。
「やっぱり兼さんはかっこ良いよ!」
「……いつもそうだろ」
和泉守は堀川から目を逸らす。顔に熱が上ってきて、袖で隠した。
いきなり堀川と和泉守の背を悪寒が撫でた。
同時に、黒い霧が部屋に漂う。堀川は顔を青く変えて震える。和泉守は刀を鞘から取り出した。
「主が危ねぇ!」
和泉守は堀川の手を引いて、部屋から無理矢理連れ出した。
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作者名:うたた寝する三毛猫 | 作成日時:2022年3月9日 11時