3話 ページ4
鋭い殺気と声が段々と近づいてくる。
彼は迷いなく足を此方に進めている。
逃げ場がない。
見回せど、あるのは冷たい塀だけ。
僕を嘲笑うかのように道を塞いでいる。
僕の背がもう少し高ければ、疲れた足に鞭打って、飛び越して逃げ出せたのに。
足止めを食らっている間に、彼もだんだんと近づいて来ている。
「ーお覚悟っ！」
水色が視界に入った。遅れて銀色の線が、僕の頭スレスレを通っていった。
ー斬られる。
咄嗟に屈まなければ、僕は血濡れで倒れていただろう。
それはまぁ、構わない。
僕は決して死なない存在なのだから。
ただ一つの欠点があるとするならば、
「死ぬほど痛みを感じる」
である。
仮にも不死身とはいえ、痛いものは痛い。
傷の治りが人よりは早いとは言えど、時間は掛かる。
仮にも深く斬りつけられたら、一日程動けなくなってしまう。
「…避けられましたか」
水色の髪が視界の端で揺れる。
蜂蜜色の瞳は鋭く吊り上げられていた。
この本丸の、一期一振である。
本来の一期一振は比較的穏やかで、紳士的であると先程貰ったタブレットに書かれていた。
しかしこの一期一振からは激しい怒りしか感じられなかった。
「次こそは仕留めますよ……お覚悟！」
刀が再び振るわれた。
速い。刀の動きが全く見えない。
僕は、せめて急所だけでも庇おうと身構えた。
ーガギンッ
しかし、刀の動きは鈍い金属音と共に止まった。
びっくりして前を見れば、見知らぬ青年が立っていた。
「……なっ……貴方は」
一期一振は目を見開くと、狼狽えた。
対する青年は、目を細めた。
「刀を納めろ、一期一振」
低い声だった。
青年は一期一振の眼前に刀を向けた。
威嚇のつもりなのだろうか。
「っ、なぜ貴方が……顕現されていたなんて」
一期一振は悔しげに眉を顰めたが、すんなりと刀を収めた。
青年も刀を収めたが、一期一振から目を離さなかった。
「今回は、失礼させて頂きます」
一期一振は、あっさりと引き下がり本殿へと引き返していった。
去り際に僕を射殺さんばかりに睨みつけたが、青年が睨み返していた。
僕の心がほんの少しだけ温かくなった。
「……おい、大丈夫だったか」
青年が此方を向いた。片目が長い髪で隠されていた。
浅葱色の羽織が風で靡いた。
腰に刺された刀を見て、彼も刀剣男士なんだと気がついたが、不思議と殺気は感じられなかった。
「ここに居るのは危険だ。今すぐ逃げろ」
青年は周りを見渡すと、門がある方角を指で指し示した。
ラッキーアイテム
革ベルト
ラッキーカラー
あずきいろ
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 127人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：うたた寝する三毛猫 | 作成日時：2022年3月9日 11時
