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29話 ページ30

三日月様は、打ち粉を手に持った。
和泉守様の方へと一歩、また一歩と踏み出した。

「おい、まさか」

和泉守様は顔を引き攣らせた。
とうとう三日月様は、和泉守様の元へと辿り着いた。

「主よ」

僕を振り返り、三日月様は口の端を上げた。和泉守様は野生の小動物みたいに体を震わせている。
堀川様も、警戒するように眉を顰めていた。


「ほれ、これで手伝い札を叩くのだ」

僕の目の前に、打ち粉が差し出された。
三日月様を見上げる。視線が交わった瞬間、首を傾げられた。

「……僕が、ですか」

戸惑いながらも、三日月様に問いかける。
三日月様は、暖かい陽だまりのような笑顔を浮かべた。

「主にしか出来ぬからなぁ」

三日月様は、穏やかな声色でそう言葉を吐き出した。
吐き出された言葉は、霞のように薄くなって消えていった。


「……そうなのですか」

知らなかった。
僕の心の中では、いろいろな感情が暴れ回っていたが、出た言葉に滲んでいたのは驚きだった。

三日月様は、僕の手に打ち粉を握らせた。
小さな声で、にこやかにこう呟いた。

「俺たちは、主を信じておるぞ」

息がつまる。
僕には勿体無いくらいの言葉だった。
三日月様の瞳は、空に浮かぶ月のように眩しく輝いていた。


僕は何も言わなかった。
横に視線をずらすと、和泉守様が声を上げた。

「主、早く手入れをしてくれねぇか」

和泉守様が早口で僕に呼びかけた。
僕は電池が入ったロボットのように、ぎこちない動きで打ち粉を手伝い札に当てた。


目の前が白で埋め尽くされた。白煙だ。
白煙が消えていくと、小さな人影が和泉守様の刀に打ち粉を当てていた。着物を着ているのが目に入る。

「……これは?」

「主を手助けしてくれる者だ」

和泉守様が小さな人を指で突っつく。
小さな人は、和泉守様を見つめたが一度目を合わせただけだった。
それからは、和泉守様が指で突っついても打ち粉を振い続けていた。

30話→←28話 ※12月12日に加筆しました


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作者名:うたた寝する三毛猫 | 作成日時:2022年3月9日 11時

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