24話 ページ25
和泉守様は弱くはない。
けれど、折れない保証なんてない。
僕にも堀川様にも、それは理解できている。
だから、あの時。
和泉守様を置いていかなければならなかったあの時。
「国広、主を頼んだぞ」
「……嫌だ、嫌だよ！」
堀川様は、和泉守様の頼みを承諾しなかった。
泣きそうな顔は、和泉守様に否定の意を示していた。
僕もきっと、同じ顔をしていたはずだ。
そんな僕たちを見て、和泉守様は困ったような笑みを浮かべていた。
「そう言うなよ、国広」
「兼さん、どうして……」
堀川様は和泉守様に尋ねた。
拳を握る姿は、泣きそうになっているのを堪えているかのようだった。
「僕も、嫌です」
「んだよ、主まで……」
僕だって、和泉守様だけを置いていくのは反対だ。
和泉守様に折れて欲しくはない。
だから、僕は首を横に振った。
和泉守様は、僕と堀川様を交互に見てため息をついた。
「折れるつもりはねぇよ、けどな」
和泉守様はそこで言葉を止めた。気合いを入れ直すためか咳払いを一つした。
そして、和泉守様は僕の瞳を見つめた。
「守りてぇんだよ」
僕は誰を守りたいのか、なんて聞く気にもなれなかった。
堀川様もそれは同じだったようで、俯いて口を閉じていた。
「行こう、主さん」
どうやら折れたのは、堀川様の方だったようだ。
僕の手を引いて、和泉守様に背を向けた。
部屋を僕と堀川様が出た途端に、まるでその時を待っていたかのように、刀が交わる音が部屋では響いていた。
「……兼さんは、きっと大丈夫だから」
だから僕たちもやれる事をしましょう、と堀川様は穏やかな笑みを浮かべた。
僕は頷くと、堀川様と共に歩き始めた。
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作者名：うたた寝する三毛猫 | 作成日時：2022年3月9日 11時
