16話 ページ17
「……いち兄！目を開けてください」
秋田は、倒れそうになる一期を精いっぱい支えていた。
一期の瞳は、固く閉ざされていた。
「何かあったのか」
これまで、少し離れて一期と秋田の様子を見ていた三日月が、異変を察知して、秋田の元へと動き始めた。
それを横目に、秋田の腕から力が抜けた。
秋田はもう、一期を支える力を使い果たしていたのだ。
「あっ！」
その途端、一期の身体はゆっくりと、秋田に向かって倒れかかってきた。
一期の瞳は、閉じたままであった。
秋田は、反射的に一期から距離をとった。
無理もない。秋田と一期は、体格が余りにも違うからだ。
その判断は、確かに正しかった。
秋田が一期に押しつぶされてしまうという未来は、防げたのだから。
だが、それには一つだけ、重大な欠点が存在していたのである。
その欠点とは、目覚める様子がない一期であった。
そして、一期は今にも倒れてしまいそうだった。
倒れかかる筈だった秋田が居なくなってしまえば、一期は、地面に為す術もなく叩きつけられてしまうだろう。
ふらり、と一期の体からとうとう力が抜けた。
「しまった！」
秋田は、すぐにそう気がついた。
だが、やはり彼だけでは、一期を支えきれそうにはなかった。
そう。秋田だけならば、である。
秋田の前に、誰かが割り込んできた。
秋田は、その人物を目にすると、瞳を大きく開いて輝かせた。
「三日月さん！」
三日月は、倒れかかっていた一期をしっかりと受け止めて、支えたのだった。
「ありがとうございます！」
「はっはっは、よきかなよきかな」
秋田は、明るい声と眩しい笑顔で三日月に礼を述べた。
三日月も、嬉しそうに暖かい笑みを浮かべていた。
「……くっ」
そんな秋田と三日月の間では、一期が苦しそうに眉を顰めていたのだった。
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作者名：うたた寝する三毛猫 | 作成日時：2022年3月9日 11時
