僕的生き方

・ ページ48

・






『母子家庭で苦しくて、お金が欲しくて事務所に入りました。
でも次第に応援されることに責任を感じ初めて。
僕がデビューすることをファンの方が求めているのならしなくてはいけない、そう思って今まで取り組んできました。
でもそれが親やファンの方、他のJrの方に失礼にあたることに気づきました。
そこから道が見えなくなって、今も見えていません。』



そこまで一息で言った水上くんは、左手で右腕を強く握りしめている。



『でもエンターテインメントは好きなんです。
だから続けたいとは思っているんですけど、ジャニーさんが夢がなかったらもたないよって。』



なかなかと衝撃的なことを淡々と話していた水上くんの語尾が、僅かに震える。



『…滝沢歌舞伎を見て、皆さんに憧れました。
あんなに真っ直ぐ夢を追いかけられたら、楽しいんだろうなって。
どうして俺は、そこにいけないんだろうって。』



水上くんに向けていた、悔しさと怒りが不思議と溶けていく。


この中で1番才能に恵まれ、1番デビューに近い位置にいる彼は、デビューの夢をみられない。


夢を見られないことには、見られないなりの苦しみがあるんだと。


エンターテインメントへのやりがいと、楽しさと、応援に対するプレッシャーと、そして類稀なる才能を持て余して、彼は1人きりでもがいている。


夢を見るって、なんて幼稚で、なんて尊いのか。


夢の見方を知らない彼は、独りでずっともがいている。



…まあ、俺らも、真っ直ぐ夢を見ているって訳でもないんだ。


あちこち蛇行しながら、たまに見失いながらも、もがいているわけで。


でもちゃんと、ステージの上では、誰かに夢を見させることが出来ていたんだな。



『…ジャニーさんが、じゃあSnow Manさんの夢を借りたらどうだって。
彼らは夢を見させてくれるよって。』



まるで世界に7人しかいないような、怖いくらいの静けさに包まれる。



『…俺のわがまま。
触れてみたくなったんです、あなたたちに。』



水上くんがふんわり微笑んだ。


なんだろうこの気持ち、なぜか懐かしい。


あぁ、そうだ、なんか、可愛いかった同級生の子が俺に笑いかけてくれたときみたいな。


痒くて不思議で、暖かくて、ラッキーって浮かれちゃう感じ。



水上くんのことはよく分からない。


だけど、人に愛されるべき人だと分かった。


クールで大人びていて、でも本当はこんなに可愛い子なんだって。







・

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す