イ劇のヒロイン/ky ページ42
腕時計を見ると20時に指しかかろうとしていた。
結婚詐欺の男と会う時は決まって金曜の夜20時過ぎだった。
本気で好きだった。
だからこそ少しくらい自分のこと可哀想だって思ったって罰当たらないでしょう。
悲劇のヒロインになったって私の物語は私が主役なんだから。
もう結構前のことなのに未だに引き摺ってるあたりがだめなんだなっと目を擦ってイヤホンを耳に装着してから駅へ向かおうと立ち上がった。
瞬間、またしても腕を掴まれた。
外界との音がシャットダウンされていた為、肩が跳ねるほど驚いてしまった。
恐る恐る後ろを振り向くとラフな格好とは一転、どこかへ出かける服装のキヨが立っていた。
慌ててイヤホンを耳から外すとキヨは「暇?飯行かね?」と誘ってきた。
めんどくさそうな女は嫌いそうだし会ってから動画も何度か見たけれど出不精みたいなのに……。
「い、いけど新しい悲劇のヒロインの話はないよ」
「へぇ、じゃあまだ前のやべー男のこと考えて泣いてたんだ?」
「目敏い」
「褒められると照れんな〜」
「褒めてない」
それで結局、結婚詐欺の男の話を泣きながら話し「少しくらい可哀想って思っていいよね?」と涙ぐむ度にキヨには烏龍茶片手に大爆笑された。
「悲劇のヒロインやんの好きなの?」
「好きなわけない」
相手がお酒を飲まないなら飲むのは忍びなくジンジャエールで応戦したと言うのに感情が昂りアルコールが入ったように身体と頭が痛いのは散々泣いたからだろう。
「もう話すことないです」
「じゃあ俺が話そ」
カランと氷を鳴らしてあと僅かなジンジャエールを喉に流し込むと同時に入店してから数時間経っても上着を脱がなかったキヨがやっと脱いだ。
「どえっ?!」
ぶはっと笑ったキヨは「リアクション最高」と親指を立てていた。
「な、なんでスーツ」
「まあ、ジャケットはないけど」
キヨはやけに綺麗な指を柔らかく伸ばして手の平を私に差し出し片方の手は胸に当てていた。
「んじゃ、俺の喜劇のヒロインにしてやる」
「……ごめん、話読めない」
キヨは悲劇のヒロイン好きではないと言いつつおよよ〜んてなってんなら口では何とでも言えっし結局は好きなんだなと言う結論に至ったらしい。
「母音同じだしいいっしょ?」
「そういう問題じゃ……」
「折角タイプ聞き出してめかしこんで来たのに?」
目をぱちくりさせてキヨを見ると彼はニヤリと笑った。
「さあ、上映開始」
そう言って重ねた手は焼けるように熱かった。
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luco(プロフ) - パンださん» パンだ様、コメントありがとうございます!読者様の楽しみになれて嬉しいです。今後もマイペースになりますが頑張りますのでこれからもよろしくお願いします! (2021年3月30日 2時) (レス) id: 2a3978e9c4 (このIDを非表示/違反報告)
パンだ - めちゃくちゃ面白くて楽しませて貰ってます!更新頑張って下さい! (2021年3月28日 23時) (レス) id: 0ce8abb0bc (このIDを非表示/違反報告)
luco(プロフ) - ららさん» らら様、コメントありがとうございます!lucoを知って頂いた上に全作品お読み頂けて嬉しいしかないです!微微調整しながら今後もマイペースに更新していくのでこれからもよろしくお願いします\(^^)/ (2020年2月23日 1時) (レス) id: 2a3978e9c4 (このIDを非表示/違反報告)
らら - 最近、lucoさんの事を知って今めちゃめちゃハマってます、!!lucoさんが書かれた作品全部読ませて頂きました!!きゅんきゅんして幸せです!笑 これからも頑張ってください!応援してます!! (2020年2月23日 1時) (レス) id: 55f78e88a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:luco | 作成日時:2020年2月11日 1時