【実l況l者】たとえば自惚れじゃないとして【短編集】

運命は創るモノ/uszw ページ25

目が合った瞬間逃げ出した。
いつも優しい雰囲気を醸し出してるから最初は「待ってよ」と追い掛けてきたけれど無視して全速力で走っていたら「待てっつってんだろ！」と本性を出してきた。

黒縁眼鏡の奥に潜めてる肉食動物みたいな瞳が……ずっと苦手だった。

初めて会ったのは友人に連れられ行った食事会、2度目に会ったのは最寄り駅近くの本屋、3度目に会ったのは職場の近くにあるクリーニング屋の前、4度目に会ったのは家の近くのコンビニ、そして今回で5度目、友人の彼氏を紹介すると言われ行った場所に友人の彼氏の友人として彼、牛沢さんと会った。

毎回この人は会う度に「奇遇だね」と話し掛けてくる。
私は危機管理能力が低い訳ではない、と言うか普通の人より高い。
顔面の能力値を全て妹に持ってかれた為、とても可愛い妹が何度もストーカーに遭っているからその類の危機対処はそこらのお嬢さん方よりは高い。
だから最近会った人にひとつも身辺情報も漏らしていないのにテリトリー内をウロウロされたらかなり気になる。

しかも遠回りしながらもどんどん家に近付いてくる。

ちょっと待て、こんな類の怖い話聞いたことあるぞ、あなたの後ろにいるのって奴って考えてたら5度目の食事会で超絶スマイルで「Aさん、奇遇だね！」と言われれば逃げ出すだろう、誰だって。

しかし陸上部でもなければどっちかって言うと走るのが苦手な私が逃げ切れる訳もなく腕を掴まれたと思ったらずるずると湿った路地裏に連れ込まれた。

「本当に奇遇……なんですか？」

乱れた息をお互いに整え合い、途切れ途切れながらも聞いてみる。
鞄の中でスマホがぶーっぶーっと振動しているのはこの際もう無視だ。

「こんなに短期間で5回も奇遇に会うなんてそれはもはや運命だと俺は思うけど？」

欲しい答えは明確にくれないタイプの人間か、わかっていたけど。

「人のテリトリー内でウロウロするのやめてください」

キョトンとした顔をした牛沢さんは、ぷっと吹き出し特徴的な声で笑いだした。
む、何か可愛げあるな……ドナルドダックみたいだ。

「ごめんごめん、本当に奇遇なんだって」

未だに笑ってる牛沢さんが嘘を吐いてるように見えなくてストーカーだと勘違いをした自分が途端に恥ずかしくなり顔に熱が集まってきた。

「今回は許してあげよう」

差し伸べられた手を今日のところは取って逃げ出した場所へと影を並べて歩いて帰った。


「(さて、あと何回奇遇を重ねたら運命にしてくれる？)」

だから人生は楽しい/rt→←キミはオレだけのヒロインさま！/rt

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