コンタクト 【 トラファルガー・ロー 】

鏡の向うの悪魔 ページ18

ローの唇についたAの血が凝固する頃にやっと部屋に静寂が訪れる。

ローはAの上からどいて横になり、少しすると規則正しい小さな寝息。


Aは仰向けで寝ない。

必ずではないが火災に見舞われ命を失った女性はうつ伏せが多い。

男は仰向けでその姿があるという話をよく聞く。


これも大雑把な話だが脳に問題があり倒れる場合は後ろにばったり。

心臓に問題がある時はうつ伏せで倒れる、この違いに確証はない。


女を抱いた後に考える事じゃないだろうが、これがローの脳内回路。


ローは静かにバスルームに行くと鏡に写るは自分の姿。

口の回りは血がこびり付き獲物を食い散らかした後の狼の様だ。


いや、そんな生優しい姿じゃない。

「悪魔だ」とローは自分を見て思った。





I can't control my brain.

(自分の脳がコントロールできない)



To love too much,

(愛し過ぎて、)



LOVE and HATE,

(愛と憎しみ、)



I do not understand it at all.

(全て理解できなくなる)





悪魔の毒が全身に回ってやっと気が付く。

この毒を消し去る方法はないと。

愛と憎しみ、紙一重の感情。


愛し過ぎて相手の見るものさえ憎くなる。

その瞳に写るものが自分でないと不安が募り苛立つ。


ローは力なく首を振りその血を洗い流す。

排水溝に流れる水と血が渦を巻いて消えていく。





“ 女に八つ当たりすんなよ、クソが ”


鏡の中のローがローをあざ笑う。


「してねェ…俺はAを愛してる」


“ 本当か？ ならその血は何だ ”


「……」


“ 本当は怖いんだろ？ あの女は悪魔だと、自分から離れて行くと ”


「手放さねェ、Aは悪魔じゃねェ、どこにも行かねェ」


“ もっと血をすすれ、動けなくなる位…じゃなきゃあの女は… ”





ローは鏡を殴り粉々にした。


『ロー！？』


Aが驚いてローの所へ走ってくる。

上着だけ自分の胸に抱えローの姿を見て絶句した。


『ローどうしたの…』

「何でもねェ」


そんな訳ないと言いたそうなA。

ローの手を取り怪我していないか調べている。


ローはぼんやりAを見ていた。

異常なのはAじゃなくて俺だと思うロー。


ローに怪我なないと分かるとAはローの目を見た。

小さな唇は少しへの字でAは不機嫌な様子。


だがローは謝りも言い訳もしない。

Aの様に素直になれたらと思うだけ。


Aを抱き寄せるロー。

ただただ

この生き物が愛しくて。

悪魔の毒と試練→←悪魔はどっちだ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す