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「……満足したか」


やがて顔が離れると、心做しか満足そうに微笑む少年の姿があった。
いや、もはや元少年と呼ぶべきか。
小柄ながらも成人男性相応の肉体に、今まで存在していたはずの球体関節などが一切見られない。
先程砕けた陶器の左腕も肉体として復元しており、雑面のずり落ちた彼の顔もまた復元されていた。
手を握りしめたり腕を振り回したりと駆動の確認をしていたが、こちらの視線に気がつくと悪戯っぽく笑ってみせる。


「……怯えんといてや、A」


よく通る声だと思った。
それが目の前の元少年から発せられた言葉だと理解するまで数秒かかったが、理解した後に私が1番に思ったのは要検証案件が増えたということだった。


「俺らはAに分かって欲しいねん。Aの目で、Aの耳で、Aの手で、Aが感じたものとして解釈して欲しい」


脳内で溶けるような甘い声で囁かれる。
何故私なのか、彼の言う俺らとは誰のことなのか。
私が理解しなければならない何かが、この施設に蔓延っている。


「俺の名前は"ロボロ"や。……呼んで欲しいなぁ」
「……"ロボロ"」


その名前がやけに腑に落ちた。
まるで昔から呼び慣れているような、肺が、喉が、声帯が、舌が、唇が、彼の名前を覚えている。


「皆が気づいて欲しいっていうねん。せやから、俺からAにプレゼント」


人の温かみを感じる彼の両手が私の頬を挟んで固定する。
ぼんやりとしたまま動けない私に再び顔を近づけると、触れはしないまま目を合わせられた。桃色の虹彩が怪しく光った。


「これはプレゼントなんてお綺麗なものじゃ収まらない、欲望の詰め合わせや。いつか必要じゃなくなる日までAに付きまとう呪い」


視界が滲み始めて、急速に眠気に襲われる。
収容室で観測途中に倒れるのはまずい、管理人に、連らく、を。


「ゴメンなA。何も心配あらへんから、ゆっくりおやすみ」


遠のく意識の中で、ロボロの言葉だけがいつまでも反響していた。

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志摩(プロフ) - H2Oさん» H2Oさん、閲覧ありがとうございます。アブノーマリティの設定はめちゃくちゃ悩んだので褒めて頂けて嬉しいです。更新頑張ります。 (2019年7月16日 8時) (レス) id: 4b0ab5b92a (このIDを非表示/違反報告)
H2O(プロフ) - コメント失礼します。このパロディとても好きです。待っていました。各アブノーマリティの設定も凝っていて、読んでいて世界観に飲み込まれました。これからの更新楽しみにしております。 (2019年7月16日 7時) (レス) id: e433076a9e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:志摩 | 作成日時:2019年7月11日 0時

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