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4話 ページ4

「んっぅ‥‥っ、はぅ‥」

薄暗い室内で汗かどうかもわからない液体が肌を滑る。身体が満たされた私は
そっと鶴丸さんの肩に手を添えて離れようとした。

「も、いぃ‥で、す。」
「‥‥ん。」

離れる際に繋がった銀の糸がぷつりと切れる。私は唇を拭って、頭を下げた。

「ありがとうございます。」
「‥‥あぁ。」

相変わらず私を見つめる鶴丸さんの瞳は冷たくて 私はすっ と、目を逸らした。
なんとも言えない重たい沈黙がのしかかり、
私は耐えられなくて、早く立ち去ろうと
おずおずと口火を切る。

「き、今日は演練があるので‥。私はこれで、」
「‼‥‥‥‥あぁ、そうか。今日は演練の日だったなぁ。」

その時少しだけ鶴丸さんの表情が動いた気がして、私の胸がズキンと音を立てた。



私は知っている。彼の瞳に光が宿ったその理由を。


私を出陣には出せないから、せめて演練をということで、初めて主様に参加させてもらった日のことだった。
戦闘後少しだけ自由時間を与えられて、
初めての世界に目を輝かせていた時、
視界の端に映った、
鶴丸さんが他本丸の自分と話している光景。
その頃から霊力は貰っていたが、今と変わらず鶴丸さんの私を見る 瞳はいつも冷たかった。
でも、その他所の私に向ける表情は私が見たこともない笑顔で、凄く楽しそうで、そして愛おしそうで、
私は一瞬で全てを悟ってしまった。

「‥‥あんな顔、見たことない。」

彼がどうして私に協力してくれるのか
分かった気がした。
これは想像に過ぎないが、私が鍛刀されたのは遅かったから、鶴丸さんは以前からあの他所の私と交流があったのかもしれない。
でも、もしそうなら、性格は異なっていても、自分の好きな人(刀)と同じ容姿、同じ顔の 人が苦しむ姿は見たくないだろう。

代わりと思われている だなんて烏滸がましいことは言えない。
それでも、あの笑顔は別の私にしか向けられないもので、私には決して向けられることは無いもので、
酷く惨めな気持ちでいっぱいだった。

そこで私は初めて、人で言う恋、そしてそれと同時に失恋を 経験していたことに気がついたのだ。

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あめみや - 急な一期一振に口角が下がりません。ありがとうございました (2月23日 20時) (レス) @page30 id: d39539a2df (このIDを非表示/違反報告)
まかろん(プロフ) - 凄く感動しました、、。 (2020年8月13日 0時) (レス) id: 45c17c16c0 (このIDを非表示/違反報告)
なるちゃん(プロフ) - すごーくおもしろかったです! (2020年3月28日 10時) (レス) id: f390aacf74 (このIDを非表示/違反報告)
anao10(プロフ) - 完結おめでとうございます!お疲れさまでした…!そわそわする展開で毎話毎話じっくりと読み込んでしまいました…笑。次回作品も楽しみです。 (2019年10月24日 0時) (レス) id: 8c68a256f2 (このIDを非表示/違反報告)
黒瀬(プロフ) - 完結おめでとうございます!!!!作者様の書かれる作品は素敵な物ばかりで、本当に大好きです!!毎回、刀剣男士との距離の描き方が上手で、毎回楽しみに読んでおります!次のお話も楽しみにしてます… (2019年10月22日 23時) (レス) id: 8cdd57f528 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:杏子メロンパン | 作成日時:2019年10月6日 15時

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