唇とマーマレード

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あなたのクリスマスの予定は、わざと聞かないでおいてあげるね。

知られたくないみたいだし、それに、私も知りたくないから。

「実は、年末から海外に行くことになって…」

少しだけ言いにくそうに、彼は切り出した。

年末年始は海外ですか。

まるで冬の大事なイベントを私と過ごしたくなくて、避けて回ってるみたいだよね。

「父親の代理で結婚式に行くことになったから」

「結婚式って、海外？」

「父親の大事な友人の娘さんらしい」

「大事な友人なら、お義父様が行けばいいんじゃない？」

「夫婦で招待されてるから
うちの母親と海外とか…、行きたくないんだろ」

なるほど…。

あのご両親の仲は、そんなに冷え切ってたんだ。









「だから、Aに一緒に行って欲しいんだけど。」

「…は？
何で私？」

「夫婦で招待されてるから」

…確かにそう言ってたね。

でもそれって、代理なんだから１人で参加してもよかったんじゃないの！？

「それっていつ？」

「12月29日」

「出発は？」

「前日の朝」

うちの会社は29日から冬休みだから。

28日は無理だって！

そう言おうと思ったのに。

「Aのお父さんにはもう承諾を得た」

…ああ、先手を打たれてしまった。

それを理由に断ろうと思ってたのに！









「うちの父親が、いい機会だからそのまま新婚旅行してこいって
もう手配も全部済ませてるらしい」

それって、もう決定事項？

私が拒否する権利なんて、最初からないんじゃん。

「俺と旅行なんて、Aも嫌だろうけど我慢してくれると助かる」

そんなこと言いながら、彼も憂鬱そうな顔をしてるから。

私もますます憂鬱になる。

憂鬱な者同士が一緒に旅行ってどうなの？

彼は言いたいことを言い終えたからか、さっさとビールを片付けて、

「じゃあ、おやすみ」

って、何故か安堵したような目をして、自分の部屋へ戻って行った。

そっか…、彼も私に言い出しにくかったんだろうな。

私が逆の立場でも、言い出しにくいし、断られたくないと思うから。









「で？海外ってどこなんですか？」

翌朝、朝食中に若葉に聞かれて考え込む。

あれ…？私、行先を聞いてないような気がするんだけど。

「しかも、ついでにハネムーンとか、絶対なんかありますって！」

若葉は興奮気味にそんなことを言ってくるけど、

誓って言う。

この旅行中、私達の間には絶対何もない！

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