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それから、けんちゃんは色々なところに私を連れ出すようになった。
水族館で水槽の中にいる魚を見て「俺これ釣ったことある!」
なんてアウェイなことも言ったりして
イルカショーでは誰よりも楽しんでて
びしょびしょになっても変わらず笑顔で
遊園地に行ったときには絶叫系に乗れない私を連れ回して
嫌だって言ってるのにジェットコースターにも乗って
…泣くなって〜、そんな嫌いやと思わんかってん
なんて言って、それすらもキラッキラの笑顔で
遊園地からの帰り道、手を繋いで歩きながら
けんちゃんは静かに話し始めた。
「Aはさ、…自分を犠牲にしすぎるところがある
ドジで、誰よりも泣き虫なのに強がって、無理する癖がある」
…いつも誰よりも朝早く会社に来てんの、
俺はずっと知っててん
明日こそは俺が先に来たんねん
そう思ってもやっぱりAが先におって
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私の知らないけんちゃんの話を、
私の知らない私の話を、
たくさんたくさん
「すべての出会いには意味がある、って知ってる?」
何か言いたげな顔をしたけんちゃんがそう言う。
「……」
「俺がアンドロイドたり得るにもちゃんと意味があんねん」
けんちゃんは、何も応えられない私を見て
意を決したように話し始めた。
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作者名:葵 | 作成日時:2017年3月6日 20時