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仕事終わったら待ってるから
そういった彼はその日その夜、どこにも待ってなんかなかった
私だけが、会社で待っていた
私だけが、ひとり家にいた
ずっと待ち続けて、ちょうど日付が変わる頃
夜中に絶対鳴らないようなインターホンが鳴った
…けんちゃんだ
きっと怒る気なんてさらさらなかった
会いたかった、ただ。
「…A?夜遅くにごめんなぁ」
「全然、上がる?」
「うん、…ちょっと大事な話もしたいから上がる」
あいにく前の日から降り続いていた雨で肩を濡らして
小さく息を切らしながら
それでいて、深刻そうな顔をして。
「…アンドロイドって月1ぐらいで検査があんねん」
…別に、いつもはただの問診で終わんねんけど。
「まって、ねえ、けんちゃん…。私、嫌な話なら、…聞きたくない」
…やだよ、聞きたくないよ、
そう言って泣きそうになる私のほっぺたをむにっと掴まえて、
「嬉しい話でも嫌な話でも、俺はちゃんと聞いてほしい」
けんちゃんはいつもずるい
ポンポンっと私の頭を優しくなでる
「…わかった、ちゃんと聞く。ごめんね」
「…うん、俺、今ちょっとだけこの辺が悪いらしいねん」
けんちゃんは自分の胸のあたりをするするとなでつける。
私も恐る恐るけんちゃんの胸を触ると、
トクットクッと規則正しい振動が伝わってくる。
…なんだ、ちゃんと生きてるじゃん
人間みたいに、しっかり心臓動いてる
ねえ、けんちゃん
「A?…俺、おれさっ…コホッコホッ」
けんちゃんが私を強く抱きしめる。
苦しいよ、そう言おうとしてやめた。
「おれ、…Aのこと、めっちゃ好きやで」
十分、伝わったから。
絞り出した声が、咳ときつく抱きしめられる苦しさと
それに、けんちゃんの想いとともに
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作者名:葵 | 作成日時:2017年3月6日 20時