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まだ日も昇る前。
何かに取り憑かれたようにハッと目を覚ました私は
隣でぐっすり眠るけんちゃんを見てほっと胸をなでおろした。
「A…?」
「けんちゃん、…おはよ」
「おはよう」
朝ごはん作るね
そう言ってベッドから出ようとした時、
「もうそろそろ、みたいやわ」
「…うそ」
目の前で見ている景色が、
キラキラと光になっていくけんちゃんが
これが夢なら、悪い夢なら早く覚めてほしいと
「俺と会う前の君に、…Aに会えてよかった
じいさんもそう言うてるよ、きっと」
「まって、行かないで」
きつく、きつくけんちゃんを抱きしめても
きっともうすぐ私の手の届かないところに行ってしまう
「A、きっとすぐ、また会える」
「…けんちゃん」
何とか絞り出した声は無惨にも
空気となって消えていく
「A?好き、大好きやで」
「うん、」
もう、息もできないくらい
涙が止まらないの
「A、…Aっ、」
こだまのように私の名前を呼び続けるけんちゃんは
「最後に、愛してるって、言うて」
「うん、…うんっ、けんちゃん愛してるよ、ずっとずーっと」
「ありがとう、…A」
「けんちゃんっ、いやぁ、待って…、ねぇ行かないで」
先程まで、彼が、…けんちゃんが
横になっていたベッドがまだあったかくて
「けんちゃん…、いやぁ…」
涙は、嗚咽はとどまることを知らなかった
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作者名:葵 | 作成日時:2017年3月6日 20時