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   参 ページ8

おしろいの中になにかしら毒があれば、どうだろう。
使う者が母親ならば胎児のうちから影響を与えるだろうし、生まれた後も授乳の際に口に入ることがあるかもしれない。

壬氏も玉葉妃もそれがどんなものかわからない。ただそれが東宮を殺した毒だということは理解できた。

「無知は罪ですね。赤子の口に入るものなら、もっと気にかけていればよかった」
「それは私も同様です」

結果、帝の子を四人も失わせてしまった。母胎から流れた子を加えたら、もっといるのかもしれない。

「梨花妃にも伝えましたが、私が何を言っても逆効果だったみたいです」

梨花妃は今も、目に隈のはった顔色の悪い肌におしろいを塗りたくっている。それが毒であるとも知らずに。

壬氏は生成りの布きれを見る。不思議と、どこかで見覚えがあるような気がする。
たどたどしい字は、筆跡をごまかしているようにも見えるが、しかし、どこかしら女性らしい文字に見えた。

「いったい、だれがこんなものを」
「あの日、私が医師に娘を診てもらうように言ったときです。結局、貴方の手を煩わせただけの後、窓辺に置いてありました。石楠花の枝に結んで」

では、あの騒動が原因で、なにかしら気づいた者が助言したというのだろうか。
いったい、だれが。

「宮中の医官はそのような遠回しなことをしないでしょう」
「ええ、最後まで東宮の処置がわからないようでしたから」

あのときの騒動。
そういえば、と壬氏は野次馬の中にひとり我関せずといった様子の下女がいたというのを思い出した。
吸い込まれそうな紫色の瞳を伏せながら、なにかをぶつぶつ言っていた。

なにを言っていた?

『なにか、書き物はないかな』

ふと、なにかが頭の中でつながった。
くくくっと、笑いがこぼれる。天女のような艶やかな笑みが浮かんだ。

「玉葉妃、この文の主、見つけたらどうなさいます?」
「それはもう、恩人ですもの。お礼をしなくてはね」
「了解しました。これはしばらく預かってよいですか」
「朗報を期待します」

壬氏はさわり心地のあまり良くない、目の荒い布に記憶をたどらせた。

「寵妃の願いとあらば、必ずや見つけねばならぬな」

天女の笑みに、宝探しをする子どもの無邪気さが加わった。

天女の微笑 壱→←   弍



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作者名: | 作成日時:2024年1月18日 22時

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