弍 ページ7
蒸したての万頭のような頬をした公主は、赤子の無邪気な笑顔を見せる。小さな手のひらはぎゅっと拳を作り、壬氏の人差し指を掴んだ。
「これこれ、はなしなさい」
赤毛の美女は優しく娘をおくるみに包むと、籠の中に寝かせた。
赤子は暑いとおくるみをはねのけ、来訪者のほうを見ては言葉にもならない声を機嫌よく鳴らしている。
「なにか聞きたいことがあるようですが」
聡明な妃は、壬氏の思惑を感じ取っているようだ。
「なぜ、公主は持ち直されたのです?」
単刀直入に言うと、玉葉妃はふっと小さな笑みをこぼすと懐から布きれを取り出した。
はさみも使わず裂いた布に、不恰好な字が書いてある。字が汚いというわけでなく、草の汁を使って書いてあるため、にじんで読みにくくなっているのだ。
『
たどたどしく書いたのもわざとであろうか?
壬氏は首を傾げる。
「おしろいですか?」
「ええ」
玉葉妃は侍女に公主を任せると、引出から何かを取り出す。
布にくるまれたそれは、陶器製の器だった。蓋を開けると、白い粉が舞う。
「おしろい?」
「ええ、おしろいです」
ただ白いだけの粉になにがあるのだろうとつまむ。そういえば、玉葉妃は元々肌が白く美しいのでおしろいをしておらず、梨花妃は顔色が悪いのをごまかすように塗りたくっていた。
「小鈴は食いしん坊でして、私の乳だけでは足りず、乳母に足りない分を飲ませてもらっていたのです」
生まれてすぐに赤子を亡くしてしまった者を、乳母として雇い入れたのだ。
「それは、乳母が使っていたものです。ほかのおしろいに比べて白さが際立つと好んで使っていたのです」
「その乳母は?」
「体調が悪かったようなので暇を出しました。退職金も十分与えたはずです」
理知的で優しすぎる妃の言葉だ。
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作者名:泉 | 作成日時:2024年1月18日 22時