参 ページ47
壬氏が信じられないものを見るような目でこちらを見る。
「今の顔も、まだその化粧をした後なのか」
「ええ、薄めですが。すっぴんを晒すのは控えたいですし」
一応これでも乙女ですからね、と真顔で付け足す。
Aなりの冗談である。
なんだか理解できないという風に、壬氏が頭を抱えた。
「なんで、そんなことをするんだ、意味あるのか?」
「ええ。路地裏に連れ込まれないためです」
Aは丁寧に答える。
花街とはいえ、女に飢えた奴らもいます、彼らは大抵金も持たず、暴力的で、中には性病持ちも多いです、と。
そもそもAの本来の顔面で言えば、そこらをほっつき歩いていたら即帝に献上されるか、あるいは死人の行進ができるか、どちらかという
当然、ごめんこうむりたい。
ぽかんとした壬氏がなぜか恐る恐る聞いた。
「連れ込まれたのか?」
「未遂ですよ」
いわんとした言葉がわかったため、半眼でねめつける。
「かわりに人買いにかどわかされましたけどね」
後宮に売りとばす女は見目よいほうがいい。
あのとき、たまたまそばかすだけつけるのを忘れ、頭巾もかぶらずに薬草を取りに行ったのだ。
ぎりぎり売り物になると判断されたようである。
「悪いな。管理が行き届いてなくて」
珍しく壬氏が暗い声で言った。
「いえ、別に気にしていません。かどわかしの身売りと口減らしの身売りの区別なんてつかないでしょう」
前者は犯罪で、後者は合法にあたる。たとえ、かどわかしでも買った人間がそれを知らなかったといえば、罰せられることはないのだ。
今現在、後宮でそんな化粧をしているのは、顔を隠さねば一生後宮から出られないこと間違いなし、とA自身わかっているからであった。
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作者名:泉 | 作成日時:2024年1月18日 22時