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化粧 壱 ページ45

園遊会が始まるまであと半時というころ、玉葉妃たちは庭園の東屋で時間待ちをしていた。

池には色とりどりの鯉がはね、赤く染まった紅葉が残り少ない葉を散らしていた。

「あなたのおかげで助かったわ」

日の光は十分だが、風が冷たい。普段なら震えるしかないが、温石をつけた肌着のおかげで皆それほど苦はない。
心配だった鈴麗公主も、籠の中で丸まっている。籠の中には温石を入れている。

「公主のものは時折外して布を巻き替えてください。低温やけどになる場合がありますので。あと、飴は舐めすぎるとひりひりするので気を付けてください」

「わかったわ。それにしても」

なんというか、ちゃんとAで安心するわ、とため息をつく。他の侍女たちも苦笑する。


「あなたは私の侍女なんだからね」
翡翠の首飾りを指さす。

「ええ」

Aは言葉のままとらえることにした。

_____________________


高順は、徳妃のご機嫌をうかがう主を眺めていた。

天女の微笑みと天上の甘露を持つ壬氏は、幼いながら美姫と謳われた徳妃よりも艶やかであった。
普段の簡素な官服からいくらか刺繍を加えて、髪に銀の簪をさしただけなのに、絢爛豪華な衣をまとう妃をかすませてしまう。

ここまで来ると嫌味な存在であるが、かすんだ妃本人が目を潤ませてうっとりしているので問題ないだろう。

まったく罪な人間である。

三人の妃たちを回り、次に玉葉妃のもとに向かう。

四夫人に対して平等に接すべき壬氏であるが、最近、どうにも玉葉妃の肩入れが強い。まあ、皇帝の寵妃ということでそれほど問題視すべきでないが、理由は他にもあるのは明確だ。

妃に礼をする。赤い衣がよく似合うとほめる。
たしかに、似合って美しい。胡姫の神秘さとあでやかさが空気にまで混じるようである。

周りの女官たちもそれぞれに個性的な美しさがあって、壬氏はそれを明確に口にする。
誰もが自分が気に入っている部分を褒められたい、そこをうまくつくのだ。

壬氏は嘘をつかない。
ただ、本当のことを言わないだけで。

高順は主の顔を見る。左の口角がわずかに上がっている。長年、仕えてきた従者にはわかる。玩具を目の前にした子どもの表情である。こまったものだ。

壬氏は、自分が近づくなりそそくさと逃げ出した、見慣れた後ろ姿の侍女に近づき、肩を叩く。

そこには無表情でどこか見下したかのような不遜な顔をする、しかしいつ妃に召し上げられてもおかしくないくらいに美しい、見慣れない侍女がいた。

   弐→←      参



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作者名: | 作成日時:2024年1月18日 22時

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