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  伍 ページ41

壬氏に連れられて来たのは、宮官長の部屋だった。
中年の女官は、壬氏の指示で退出した。

正直、申し上げよう。この生き物と同部屋二人きりなど、まったくもって無理だ。

Aとて、別にきれいなものが嫌いなわけではない。
ただ、きれいすぎて汚点が罪悪のように感じられ、許せないのだ。磨き抜かれた玉に一筋の傷が入るだけで、価値が半分になるのと同じである。

自分もそんなことを言えたご身分じゃないというのはわかっている。
わかっているからこそ、壬氏に自分を重ねて(・・・)見てしまって、自己嫌悪が加わって、つい冷たく接してしまうのだ。

正直、高順が入ってきたときは、ほっとした。
最近、無口な従者が癒し系に変わりつつある。


「これらは一体何色くらいあるんだ?」
壬氏が尋ねる。

Aは医局から持ち出した粉を並べた。

「赤、黄色、青、紫、緑、細かくわければもっとあります。具体的な数はわかりません」
「では、木簡にその色を付けるにはどうすればいい?」

粉のまま擦り付けるのは無理がある。

「塩ならば塩水につければいいだけです。こちらも同じようにいけると思います」

白い粉をよせる。

「他のものは、水以外のもので溶けるものがあるみたいです。油とかですね。これも、専門外なのでわかりません」
「十分だ」

今のAの言葉がなにかの根拠になったのだろう、壬氏は頭の中でばらばらの欠片を組み合わせているようである。

(暗号……かな?)

導き出される答えはおそらく同じものであろう。しかし、それを言うべきではないとAは重々承知していた。

これ以上、用はなさそうなので、退出しようとすると、

「待て」

呼び止められた。

「なんでしょうか?」
「土瓶蒸しが好きだ」

何の?というまでもない。

(やっぱりばれてる)

肩を落として、

「明日にでも探してまいります」

と伝えた。

_______________

ぱたんと、扉が閉じたのを確認すると、壬氏は甘いはちみつの笑顔をしまった。かわりに水晶の切っ先のような視線になる。

「ここ最近で、腕にやけどを負ったものを探せ」
「御意」

高順が退出すると、代わって宮官長が入ってきた。

「申し訳ないね。いつも場所を借りてしまって」
「そ、そんなことは」

宮官長は年甲斐もなく顔を赤らめている。

壬氏の表情には、また天上の甘露の笑みがはりついていた。

女とはこうあるべきなのに。

壬氏はほんのひと時だけ、唇を尖らせると、またもとの笑みを浮かべて、部屋を出た。

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作者名: | 作成日時:2024年1月18日 22時

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