傾国のひとりごと (ページ38)

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医局には、どじょうひげのやぶ医者の他に、青白い顔をした見慣れない宦官がいた。
なにかしきりに手をさすっている。

「おお、嬢ちゃん、ちょうどよかった」
「なんですか」
「手がかぶれたらしくてね。すぐ、軟膏を作ってくれないかい？」

どうにも後宮の医を統べるものの言葉ではない。
まあ、いつものことなので、隣の薬棚のある部屋へ向かう。

そのまえに、Aは籠を置いて、松茸をとりだした。

「炭とかありますか？」
「おおっ、立派なもんとってきたな。醤と塩もあったほうがいいな」

好物なのか話が早い。やぶは浮かれた足取りで食堂のほうへ調味料をもらいに行く。

可哀そうに病人は置いてかれたままだ。

(嫌いじゃなければ、一本くらいあげよう)

材料をごりごりとかき混ぜながらAは思った。

やぶ医者が調味料と炭鉢と網を持ってきたころ、ねっとりとした軟膏が出来上がった。

宦官の右手を取り、赤い発疹に丁寧に塗りつける。多少匂いがきついが、我慢してもらわなくては。
薬を塗り終えると、少しだけ青白い顔が元にもどったようである。

「いやあ、優しい下女だねえ」
「そうだろう、よく手伝ってくれるんだ」

のほほんとした会話をする宦官二人。
宦官といえば、時代によっては権力欲にまみれた悪人のごとく扱われるが、実際はそんなのはほんの一握りである。
大抵は、このように穏やかな性格をしている。

(例外もありますが)

ちらりと不愉快な顔が浮かんだので、すぐさま消去した。