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     弍 ページ4

「くわしくは知らないけど、皆、だんだん弱っていったんだってー」
雑巾で窓の桟を拭きながら、おしゃべりな下女、小蘭はそう言う。

「お医者さまの訪問回数から、梨花さまのほうが重いのかしら?」
「梨花さまご自身?」
「ええ、母子ともによ」

医師が梨花妃のほうに出向くのは、子が東宮だからであろう。玉葉妃の子は公主である。
帝の寵愛は玉葉妃の方に重いが、生まれた子に性差があればどちらを重きに置くかは明白である。

「頭痛とか腹痛とか、吐き気もあるっていうけど」

小蘭は知っていることをすべて話すと、しげしげとAの顔を覗き込んだ。


「...それにしても、A、目も声も綺麗だねー」

Aは首を傾げてみせる。

「紫の瞳なんて初めて見た。声もなんか透き通ってて、甘い感じ?飴みたい」

小蘭は暫くAの瞳を眺めていたが、やがて満足したのか、次の仕事に向かった。



 

(それにしても、頭痛に腹痛に吐き気か)

Aは顎に手を当てて考える。

思い当る症状だったが、決定打はない。
予測だけで物事を考えるのはいけないと、Aは散々おやじどのから言われていた。

(ちょっとだけ、行ってみよう)

Aは手早く仕事を終わらせることにした。





後宮と一括りに言ってもその規模は広大である。
Aたち下女は大部屋に十人単位で詰め込まれているが、下妃は部屋持ち、中妃は棟持ち、上妃は宮持ちと大きくなり、食堂、庭園を含めればそこらの町よりもずっと広いのだ。

ゆえに、Aは自分の持ち場である東側を出ることはない。用事を言いつけられたときぐらいしか、離れる暇はない。

(用事がなければ作ればいいだけ)

Aは籠を持った女官に話しかける。女官の持っている籠には、上等の絹が入っており、西側の水場で洗わねばならなかった。水質に差があるのか、それとも洗う人間の違いなのか、東側で洗うとすぐに傷んでしまうのである。

Aは、絹の劣化は陰干しするかしないかの違いだとわかっていたが、それをいう必要はない。

「中央にいるというものすごく綺麗な宦官を見てみたい」

小蘭からついでに聞いた話をすると、女官は顔を赤く染めて快く代わってくれた。
色恋の刺激の少ないここでは、宦官ですらその対象になるらしい。女官を辞めた後、宦官の妻になるという話はちらほら聞く。女色に比べればまだ健全なのだろうが、やはり首を傾げてしまう。

(そのうち自分もこうなるのかな)

己の問いかけにAは腕を組んだ。

     参→←二人の妃 壱



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作者名: | 作成日時:2024年1月18日 22時

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