傾国のひとりごと (ページ20)

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Aは材料を順にすり鉢に入れて混ぜると、それを匙ですくい、口に含んだ。
苦味や甘味、それと気持ちを高揚させる成分が舌を通じて伝わる。

昔に比べて、酒にも毒にも強くなったAは、以前ほど高揚した気分にはならなかった。だがそれでも効き目が強い。

(もう少し小さくつくったほうがいいかな)

果実をさらに半分に切り、褐色の液体に浸す。
それをいくつも並べた皿を壺の中の水に浮かべる。

蓋をかぶせ、菰で隠せばあとは固まるのを待つだけである。
壬氏がそれを取りに来るのは夕刻のことで、それまでには固まっているだろう。

(少し余ったなあ)

褐色の液体はまだ残っている。材料はとても高級品だし、栄養価も高い。媚藥といっても、Aにはそれほど効くものでもないので、後で食べることにした。麺麭を立方体に切り、しみこませる。これならば、冷やす必要もなさそうだ。
蓋をし、棚に置く。

残った材料をまとめて自室に運んだ後、Aは洗い物をするために外の水場に向かった。

このとき、切り分けた麺麭も自室に運び込むべきだったが、頭の中から外れていた。巧克力の味見で少し高揚していたせいかもしれない。

まあ、後の祭りである。

その後、紅娘に用事を頼まれたり、ついでに外に生えている薬草を摘みに行ったりしている間に事は起こっていた。

Aが洗濯籠に薬草を抱えて、ほくほくしながら戻ると、真っ青な顔で額を抑える紅娘と、憂いを含んだ顔の玉葉妃が待っていた。高順もいることから、壬氏も来ているのだろう。

Aは籠を高順に押し付ると、急いで現場へと向かった。

台所に着くと、そこには呆れ顔の壬氏と、それから仲良く抱き合うように眠る三人の侍女たちがいた。彼女らの胸元ははだけ、裳はふくらはぎまでめくれていた。皆が皆、幸福そうな顔で頬は紅潮している。

「お前の腕が想像以上のものだということがわかった」

壬氏は呆れた声でAに言った。

「私もここまでとは思いませんでした」
「全く、どうしてこうなったんだ」

壬氏がため息をつく。

ふむ、とAは腕を組んだ。
そして何を思ったか、侍女たちに近づくと、裳をぺろんとめくる。

「大丈夫、未遂です___痛っ！」

Aは叩かれた頭を抑える。
振り返って見れば、Aを追いかけて来ていた紅娘が顔を赤くしながら立っていた。

　

「で、これはどういうことなの！」
「どう、と言われましても...」

卓の上には、褐色の麺麭があった。
数は三つ足りなかった。