傾国のひとりごと (ページ18)

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薬棚ページ18

万能薬という言葉はあるが、実際万能である薬は存在しない。
そんなおやじどのの言葉に反感を持っていた頃がAにもあった。

どんな病にも、どんな人間にも効く薬を作りたい。そんなわけで、他人が目を背けたくなる傷を作り、新しい薬を開発してきたのであるが、万能である薬はいまのところ完成の目途はない。

とはいえ、大変気に食わないことであるが、壬氏の持ってきた話はAに興味を持たせるに十分であった。
後宮に入ってからというものの、甘茶くらいしか作れなかったのだ。材料になる薬草は驚くくらい後宮内に生えていたのだが、道具もなく、大部屋で怪しげな行為もできずに我慢してきた。
小部屋になって一番うれしいのはそこのところだろう。

材料の調達にとでかけるが、表向きの理由として洗濯籠を背負う。紅娘の計らいで、今後洗濯係はAになるだろう。

洗濯ものを届けに来たふりをして、前もって言われていた医務室に入る。
中には、以前狼狽えるしかなかったあの医官と、壬氏によくついている宦官がいた。

医師は薄いどじょうのようなひげに触れながら、値踏みするような目でAを見る。
なぜこんな小娘が自分の領域を荒らすのだと言わんばかりだった。

(醜女をあまりじろじろみないでくださいまし)

医者に比べ、宦官は主に接するように丁寧な動きでAを案内する。

三方を薬棚で囲い込まれた部屋に入れられたとき、Aは後宮にきて一番の笑みを浮かべた。頬は赤く染まり、眼はうるみ、一文字だった唇が柔らかい弧を描く。
宦官が驚いた表情でAを見るが、そんなのは関係なかった。

「甘草、紫根、延胡索...厚朴も桂皮も！」

引出の見出しを眺め、珍しい薬を見つけるなり踊るような奇妙な動きをする。喜びがあふれ出て、頭の中で収まりきれなかった。

「それは呪いか、なにかか？」

小一時間そんなことを繰り返したところだった。
いつのまにか現れた壬氏が奇異の目でAを見ていた。