【短編雑談】言いたいことも言えないこんな占ツクじゃ

鬼門(丑寅) ページ27

■失井さんと妬良ちゃんがただただいちゃつくだけです
ちょっと(結構)シモいかもしれません....少し大人向け？■

チュンチュン......。

「ん...ぅ...」

ある日の朝、『寅』の戦士、妬良＿＿＿＿＿＿否、姶良香奈江は、知らない部屋の中で目覚めた。
厳密に言えば、知らないベッドの上だ。香奈江の部屋とは違い、物が綺麗に整理整頓された、
スッキリとした部屋＿＿＿＿＿使った様子のないキッチンと、娯楽が見当たらない必要最低限の部屋。
香奈は、こんな部屋を知らなかった＿＿＿＿＿＿こんな部屋に住んでいるであろう知人を一人しか知らなかった。

「なッ.......失井....！？」

彼女の隣でぐっすりと眠っていたのは、『丑』の戦士だった＿＿＿＿＿樫井栄児だった。
白いベッドの上に、黒髪が美しく流れている。
香奈江は驚愕した。もちろんこの部屋に自分がいること、自分の隣に栄児が眠っていることにも驚いたのだけれど、今回はそうではない。今香奈江が驚いているのは、
＿＿＿＿＿＿お互いに衣服を着ていなかったからだ。

「ここ、これって.....いや....まさか、そんな....」

自問自答を繰り返しても、香奈江には心当たりしかない。
昨日は恋人である栄児と一緒に街へと出掛けた。不器用でも紳士的な彼のエスコートに胸を高鳴らせたり....知人に会って気まずかったりもした。
そしてその後いつの間にか飲み会のようになり、終電を逃した＿＿＿＿＿＿
(じゃ、やっぱあたい...)香奈江はなんだか泣きそうだった。

ずっと、栄児との先に進めなかった。
自分から栄児を誘いたいと思っても、臆病さがそれを邪魔したのだ。
だから、今日こそはと思っていたのに、(結局、こんな形かよ)香奈江の瞳からは、大粒の涙が流れ出していた。

「初めてだったのに.....なんで酔ってんだよ、あたいは」

淫らな女だと思われただろうか。
もし栄児に嫌われたら＿＿＿＿＿＿そう思うと、たまらなかった。
すすり泣く香奈江の、頬を撫でる手が一つ伸びて、

「なぜ泣いているのかね」

と、優しく問いかけた。

【続く】

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