追想-TUISOU-１０ Secretな彼女番外編 (ページ9)

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空港をでると、横嬲りの雨で、
数少ないタクシーを運よく拾い
慌ててスーツケースをトランクに詰め乗り込んだ

時間はさほど立っていないはずなのに、
すでに俺らはずぶ濡れだった

リンは、流暢なフランス語で運転手に何かを話している
そして、ちょっと考え込んで、
再び、話始め
運転手は顎を手で触りながら、うなづくと
タクシーは走り出した

「どこ行くの？」

俺がそう言うと
しばらくだまっていたリン

そこには10年も付き合っていながら、俺の知らないリンがいた

辺りはすっかり暗くなり、激しく雨が打ち付ける

「・・パリ…駅に向かってる」

「・・え？」

「台風が珍しく来ているんだけど
今なら、TGVが動いてるっていうから・・・」

「TGV・・？
そこからどこに向かうの？」

「ボルドー」

「ボルドー？」

「とりあえず、あのまま空港にいるわけにはいかないから、家に戻ることにした」

「家？」

リンは黙り込んでいた

少しずつ、建物が増え始め
振りすぎる雨のせいで、ガラス越しに映るその風景は
歪んで見えた

俺の知らないリン

「あのさ・・リン？」

俺がそう話しかけようとすると

riririririri

電話がなる

俺も慌てて、ポケットを触る

でも、それは俺の携帯ではなく
リンの携帯で

リンは、
その電話も見て、一瞬俺を見たけれど

「どうぞ」

と
俺が言うと

「ごめん」

と言って、電話に出た

俺は、あまり聞いてはいけない気がして
窓の外を見る

外は、さらに雨が激しくなっていた。

でも、静かな車内、
否が応でもその会話が耳に入る

「ごめんなさい・・・」

リンが電話越しに謝った

耳を澄ませば、電話の向こうでは男の声だった

俺は、複雑な気持ちで
聞いていないフリをした

「ポルトガルには行け・・・」

どうやら、リンが行こうとしたポルトガルには、
男がからんでいた

少しだけ鼻をすするような音がする

そんな、泣きたくなるくらい
リンはポルトガルに行きたかったのか？

俺は湧き上がる気持ちを抑えるのに必死だった

でも、もちろんこの時の俺には、
そんな資格は全く持ってなかった

うんうん、と相手の言葉を聞いて頷く
リン

「それ・・・
ここに地果て、海始まる・・・
その先は、海果て、天始まる・・・
ってカモンイスの詩のあと、付け足したんですよね・・・」

元気なく笑った