夢、覚めそう。 ページ8
「すみませんAさん」
「あなたが気付いていらっしゃるように、先程からの私の話はアイドルを目指す22歳に対してのものであり、あなたを評価しているわけではありませんでした」
深く下げられた頭。
次に顔を見たときには、いえそんな、なんて言葉はとても言えなかった。
ついさっきまでの柔和な顔は一転、今度はもうビジネスの涼やかさも、社会人がその程度を抜きにしても多少は備えているはずの余裕や遠慮も見られない。
そんな職種で、今の状況であればなおさら必要なのに。
彼の挑むような爛々とした表情の意図が見えず戸惑った。
「私はこの仕事に、大げさだと感じられるかもしれませんが、命を懸けています。自身の無責任な発言を恐れ保身に走る、という情けない状態ですがね。
……なのでAさん、私のこれからの発言は、全て私一個人の思いであることを踏まえた上で聞いてください」
「あなたに来てほしい」
「オーディション時、あなたの歌はもちろん素晴らしいかった。しかし私はそれよりも、あなたの持つスター性に驚いたんです」
「スター性……」
「カリスマ性と言う方が一般的でしょうかね。意図せずとも人を惹き付ける性質のことです」
「歌うために、踊るために生まれた。そんな人間は多くはないがいる。他にもラップや作詞作曲、類い稀な容姿……。その、一種の天才になりうる卵ばかりを集めたのが芸能事務所です」
「ですが、私があなたに感じたような、得も言われぬ高まりを他人に与えることが、それも、こんな素人の段階でそんなことがさらりとできるのは、いないんです。世界に、歴史の中に、それがどれほど限られた存在か……」
声を出すこともままならず、バネが壊れたように浅く頷き続ける俺。
どれほど前からか、酸素がうまく供給されなくなっている。
こちらをしっかりと見据えた目が、こんなに近いのに遠退いていくようなのはなぜだろう。
耳の中で膜が張って、入ってきた言葉を熱量ごと跳ね返しては、新たに向かってくる言葉と打ち消し合わせる。
花火みたいにぼんぼんと響くばかりでらちがあかない。
もったいない言葉だ。
俺が受け止めるには、あまりにも。
ざわざわと胸の内がささくれだちだして、少しでも落ち着けなければと目をやった紅茶。
そこにはいつかの駅でえずいたときのような虚ろな顔が映っていた。
390人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「男主」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
mask(プロフ) - いいえ、こちらこそすみませんでした。ご丁寧な返事ありがとうございました。次の更新を楽しみにしてます! (2018年5月31日 22時) (レス) id: b5f8d2284e (このIDを非表示/違反報告)
しゃおとぅん(プロフ) - maskさん» それでも分かりづらい時はお手数おかけしますがもう一度コメントしていただけると嬉しいです。そこでまた考えようと思います。ご要望に沿えず申し訳ありません。 (2018年5月27日 10時) (レス) id: fd1bf708ad (このIDを非表示/違反報告)
しゃおとぅん(プロフ) - maskさん» コメント、応援ありがとうございます!名前表記の件ですが、今のところはまだ要検討ということでお願いします。これから日常パートでメンバー同士の会話も増やしていこうと考えていて、なるべく描写や口調で見分けられるようしていくつもりです。 (2018年5月27日 10時) (レス) id: fd1bf708ad (このIDを非表示/違反報告)
mask(プロフ) - 誰がどのセリフを言ってるのかあまりわからなかったので、「」の前に喋っている名前を付けていただけると嬉しいです…!それとは別に、自分が何者かいまいち謎なまま進んでいく物語というのが新鮮で、すごく面白いです!頑張って下さい! (2018年5月26日 18時) (レス) id: b5f8d2284e (このIDを非表示/違反報告)
しゃおとぅん(プロフ) - ツバキさん» コメント、アドバイスありがとうございます!次の更新で取り入れようと思います! (2018年5月4日 12時) (レス) id: fd1bf708ad (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:しゃおとぅん | 作成日時:2018年4月22日 6時