夢、動く。 ページ7
「カン・Aさん。韓国出身、1990年7月7日生まれ。A型。最終学歴は音楽院を中途退学。身長179センチ。志望の専攻分野はボーカル」
「ーー以上です。何か誤りはありませんでしたか?」
「……だいじょうぶ、です」
うわぁ……
やっぱり、怖いもんだな。
単発的な目的のため体よくほったらかしていたこの状況を、現実として受け入れろと、ついに突きつけられてしまった。
突然足元から生えてきた壁に、前後左右びっちり囲まれて隔離された気分だ。訳もわからず、なす術もなく。
……設定ちゃんとしすぎ。
逃げ場、ないんだな、本当に。
その後は黙々と契約書を読んだ。
花開く確証のない事業。練習生など赤字覚悟だと思うが、生活面は本当に優遇されているようだ。
衣食住と健康管理。
今の俺の姿は元々別の誰かの物だったわけではないので、性格や行動との違いでこの秘密がバレることもまずない。
それにもう学校も中退してしまったと言うじゃないか。
迷う理由なんてどこにもないと、応諾の意に口を薄く開いたとき、
頭の中に、一つの疑問が浮かんだ。
「……あの、僕、もう22なんです。そんな歳で、一からアイドルを目指すっていうのは、その……」
おずおずといったその言葉を聞くと、それは想定内の質問だったようで、男性はああ、と軽く頷いた。
「そういった心配をなさる方ももちろんいらっしゃいます。
ですがスカウトならまだしも、Aさんはオーディションを通ってこられた方です。その上、もちろん能力重視とは言え、年齢等も考慮されています。
そんな実力だけではどうにもならない合格条件をAさんはクリアなさっているんですよ」
「それに、むしろそれくらいの年齢のほうが広い層のペンを獲得しやすいんです。
デビュー後は青春が練習一辺倒だった子達が多いグループの精神的な中枢を担うことができる貴重な存在にもなり得ます。
人格調査、カウンセリングテストなどでも比較的有利な傾向にありますね」
滑るように出てくる言葉は定型文なのか、それとも俺を帰さない一心からか。
だけどどれも可能性としての長所で、俺のことを話してるわけじゃない。
男性は一通り喋り終えたあと、こちらの感情の深部を探るようにしばらく俺の顔をじっと見つめた。
それから十数秒ほど続いた沈黙を破り聞こえたのは、息を吐くような短い笑い。
「……やっぱり良くないな、こういうのは」
そう言い、目を細めて紅茶をすすった。
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mask(プロフ) - いいえ、こちらこそすみませんでした。ご丁寧な返事ありがとうございました。次の更新を楽しみにしてます! (2018年5月31日 22時) (レス) id: b5f8d2284e (このIDを非表示/違反報告)
しゃおとぅん(プロフ) - maskさん» それでも分かりづらい時はお手数おかけしますがもう一度コメントしていただけると嬉しいです。そこでまた考えようと思います。ご要望に沿えず申し訳ありません。 (2018年5月27日 10時) (レス) id: fd1bf708ad (このIDを非表示/違反報告)
しゃおとぅん(プロフ) - maskさん» コメント、応援ありがとうございます!名前表記の件ですが、今のところはまだ要検討ということでお願いします。これから日常パートでメンバー同士の会話も増やしていこうと考えていて、なるべく描写や口調で見分けられるようしていくつもりです。 (2018年5月27日 10時) (レス) id: fd1bf708ad (このIDを非表示/違反報告)
mask(プロフ) - 誰がどのセリフを言ってるのかあまりわからなかったので、「」の前に喋っている名前を付けていただけると嬉しいです…!それとは別に、自分が何者かいまいち謎なまま進んでいく物語というのが新鮮で、すごく面白いです!頑張って下さい! (2018年5月26日 18時) (レス) id: b5f8d2284e (このIDを非表示/違反報告)
しゃおとぅん(プロフ) - ツバキさん» コメント、アドバイスありがとうございます!次の更新で取り入れようと思います! (2018年5月4日 12時) (レス) id: fd1bf708ad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しゃおとぅん | 作成日時:2018年4月22日 6時