夢、深まる。 ページ6
「じゃあ俺はここで。……ヒョン、もしまた迷ってもまず俺に電話かけてくださいよ。絶ッッッ対外には出ないでくださいよ。死にますよ。いいですか。死にますよ」
ぐっと目を開き念押しするユンギくん。
この短時間で、俺は気付かないうちにどれだけ彼の前で失態を演じたのだろう。出会い頭の人見知りなどあの細い路地に詰めてきてしまったらしいユンギくん。
幼稚園児にも勝る保護対象として認識されてしまったのではと思ったけど、素直にありがとうと手を振った。
リアル死と隣り合わせってか。壁一枚先は闇。
元俺、よく生きこれてたな。
誰ともわからない人物を待って突っ立っているわけにもいかないので、受付で名前を告げてみた。
女の子が一旦奥に引っ込み、次に出てきたのはスーツ姿の男性。
たぶん同年代。
部屋に陣取る革のソファーの上で身を小さくする。
伏し目がちに部屋の中を見渡していると、壁にでかでかと【アイドル候補生発掘オーディション】と銘打たれたポスターが目に入った。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
湯気をたてる紅茶。
お互いそれを一口すすると男性は俺に向き直った。
「カン・Aさん、この度は合格おめでとうございます」
男性が軽めに頭を下げたとき、もう一度壁にかかったポスターが見えた。
あの希望的観測、まさか予知だったとは。
まあ、かと言ってそう驚いたわけでもない。
突拍子のないことでもなんせこの見た目だから頷けるんだ。おっさんが認めただけのことはある。
それに、前の会社でもどこの課の娘息子がスカウトされたなんて自慢話はざらにあった。若者にとってはオーディションもアイドルもテレビの中だけ、というわけじゃないんだろう。
「こちらが契約書及び同意書となります。記入は今すぐでなくても大丈夫です」
「締め切りは……」
「遅くとも、この話が終わる頃には。練習生契約についてはそちらを読んでいただければ十分かと思いですので、先に身分の確認などを行っても問題ありませんか?」
「はい」
「オーディションの参加用紙から身分確認をします。身分証明書の提示をお願いいたします」
保険証を取り出し机に置く。
「では、読み上げさせていただきます」
彼が息を吸うと同時に、ざわ、と肌が冷えた。
それは黒と白で統一された柔らかみのない部屋のせいか、それとも現俺の細部を知ることへの恐怖を体が思い出したからか。
390人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
mask(プロフ) - いいえ、こちらこそすみませんでした。ご丁寧な返事ありがとうございました。次の更新を楽しみにしてます! (2018年5月31日 22時) (レス) id: b5f8d2284e (このIDを非表示/違反報告)
しゃおとぅん(プロフ) - maskさん» それでも分かりづらい時はお手数おかけしますがもう一度コメントしていただけると嬉しいです。そこでまた考えようと思います。ご要望に沿えず申し訳ありません。 (2018年5月27日 10時) (レス) id: fd1bf708ad (このIDを非表示/違反報告)
しゃおとぅん(プロフ) - maskさん» コメント、応援ありがとうございます!名前表記の件ですが、今のところはまだ要検討ということでお願いします。これから日常パートでメンバー同士の会話も増やしていこうと考えていて、なるべく描写や口調で見分けられるようしていくつもりです。 (2018年5月27日 10時) (レス) id: fd1bf708ad (このIDを非表示/違反報告)
mask(プロフ) - 誰がどのセリフを言ってるのかあまりわからなかったので、「」の前に喋っている名前を付けていただけると嬉しいです…!それとは別に、自分が何者かいまいち謎なまま進んでいく物語というのが新鮮で、すごく面白いです!頑張って下さい! (2018年5月26日 18時) (レス) id: b5f8d2284e (このIDを非表示/違反報告)
しゃおとぅん(プロフ) - ツバキさん» コメント、アドバイスありがとうございます!次の更新で取り入れようと思います! (2018年5月4日 12時) (レス) id: fd1bf708ad (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:しゃおとぅん | 作成日時:2018年4月22日 6時