悪い噂 Ⅱ (ページ46)

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「俺さ、初めから貴方のこと知ってたの」

もう冷たくなった夜の風
朝は繋いでいた手が今は離れたまま
触れそうで、触れない、その距離は今の私たちみたい

「Aが樹に一目惚れする前から、同じマンションだってことも、同じ大学だってことも知ってた」

『え？』

「最初は同じマンションの可愛い人だなって思ってたけど、俺こんなんだから話しかけることもできないし、たまに見かけて嬉しいな、ってそれくらいの気持ちだった」

そんなの、知らなかった
あの日より前から北斗は私を知ってたなんて

「だからあの日、あの場に貴方がいたの結構嬉しくてさ、距離縮めて頃合いみて告白しようって思ってたのにまんまと樹のこと好きになるんだもん、笑っちゃったよ」

ほら、また、諦めたような笑い方

「傷つくAを見たくなくて、樹のことやめなって言ってるのに貴方はそんなの聞かないで馬鹿みたいに樹に抱かれて、泣いて、傷ついて...。見てられなかったし、泣いてるAを見たくなかった」

初めから私に好意を向けてくれていた
それでいて、樹くんのことを ‘‘ やめな ’’ って
きっと、願いでもあったんだ

‘‘ 樹に惚れてる女に興味はない ’’

あの北斗の言葉は ‘‘ だから惚れないで ’’ ってこと？

「俺、樹に勝てないから、だから、貴方が樹から抜け出せなくなる前に俺のこと好きになって欲しかった」

『ほく、と』

「でも、遅かったね。Aは樹のこと今でも好きでしょ？」

『私は、樹くんのこと...』

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「好きだよ、Aちゃんは俺のこと」

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ふわっと後ろから抱きしめられた

それはここ数日間嗅ぐことのなかった、甘い匂い
大好きな、いつの日からか落ち着くようになった

樹くんの、匂い

『樹、くん？』

「だから北斗、ごめん。Aちゃん俺に頂戴？」